破滅の恋

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「写真を撮ろう」  勝彦さんはそう言って僕に笑いかけた。  夕暮れ時の海辺には、僕たち二人だけしかいない。  もう秋も終わりに近づき、海風も冷たければ、夜はもうすぐそこまで迫っていた。  沈みかけた夕日に照らされ、細く伸びている僕の影が、勝彦さんの影と重なり合っている。 「でも……」  僕はその影を見つめながら、言葉を詰まらせていた。  二人の思い出を残すのはどうなのだろうかと、僕が引け目を感じていたからだ。 「君の言いたいことも分かるよ。でも君が僕の恋人であったという事実を、記録として残しておきたいんだ」  そう言って勝彦さんは、スマホを片手に僕の隣に並ぶ。聞いてきたくせに、僕の回答を得る前にさっさと僕の肩を抱く。  引き寄せてくる力強い手の感触に、僕の胸は酷くささくれ立つ。  ギュッと唇を結ぶ僕に、勝彦さんはいつもの屈託のない笑顔で「笑顔、笑顔」と言う。  そんなことを言われたからといって、僕は到底笑えないことだった。  何もかもが、勝彦さんの思い通りに進められている。いつも僕はそれに、無理やり付き合わされているだけなのだ。  写真を撮り終えた勝彦さんは、撮った写真を確認しつつ「最後ぐらい笑ってよ」と言って、困ったように頬を緩める。  今日で勝彦さんとは恋人ではなくなるのだから、笑える勝彦さんの方がどうかしている。
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