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 少年時代の夢を見たのは久しぶりだ。そう思いながら、俺はそっと起き上がった。  辺りはまだ暗いが、そろそろ起きて支度をしなければ、夜明けに決行する作戦に間に合わない。  妙子に、最後の手紙は出した。これ以外にやり残した事なんてない。  確認するようにそう言い聞かせて、俺は服を整え、一機の小さな飛行機に乗り込んだ。  夜中の飛行は、戦中とは思えない程静かだった。  決行の合図が出るまで待機する位置で静かに留まった俺は、ふと妙子との最後の会話を思い出した。  「それじゃあ、行ってくるけん。今度は、日本国の英雄になってくるけんのぅ。まぁ、英雄にしては小さいんじゃが……」  玄関の扉の前で、俺は笑って言った。すると妙子が、俺の両頬を両手でピチッと叩いて言った。  「小さいとか関係なか。どんなでも、裕さんは妙子のぶちかっこええ英雄様じゃ。胸張るんじゃ、ほれほれっ」  「あたたっ、分かった、分かったから叩かんでくれや」  妙子は、俺の頬を叩いていた手を止めた。俺は彼女に笑って言った。  「じゃあのぅ」  「いってかえりん……」  妙子の口を慌ててそっと抑えた俺は、低く言った。  「それは禁句じゃ。外の奴に聞かれたらまずい」  「じゃあ、小声で……」  「そんなことしなくても、わしにはそう聞こえとるから大丈夫じゃ。ご近所さんに怒られんように送ってくれんか」  俺はそう笑った。妙子は一つ頷くと、俺の右手を両手で握った。そして祈るように目を閉じ、すぐに開いた。  「……何じゃ?」  「妙子の勇気を送ったんじゃ」  「そうか……呉の女傑様から勇気なぞ貰ったけん、弱気なんて消えてしもうたわ」  「そうじゃろ」  妙子は得意気に笑った。その顔を見るのが好きだった俺は、暫くそれを見ていた。  扉を開けると、外に何人か男達が歩いていた。その奥に見えた小さな空を見て、俺は彼女の方を振り向いて言った。  「よし。じゃあ、行ってくるけん」  「いってらっしゃい」  最後に見た妙子は、手を振りながら笑っていた。彼女の声が、ちゃんと『いってかえりんさいね』と聞こえた俺は、笑って彼女に背を向けその場を発った。    空が次第に明るくなった。もうそろそろ合図があるだろう。最後に見る空は、どんななのだろう。  合図があるまでの数分間、俺は空を見た。  雲一つない瑠璃色の空が、辺り一面に広がっていた。  『きれいじゃ……妙子もこれを見ているじゃろうか……あぁ、会いたいのぅ』  合図があった。俺は敵艦に向かって真っ直ぐに、飛行機ごと突撃した。
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