空色

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部屋で、スポーツバッグから荷物を取り出していた。 コンコン、「空、おかえり」父さんがやってきた。 「どうだった?」 「ああ、疲れたよ。」 「空、そのズボンもう小さいんじゃないか?」 履いている半ズボンを見てみると、もう太ももが半分以上見えてる状態になっていった。 「大きくなったんだな。ちび助だと思ってたんだけどな。」 「小学校んときはいつも気を付けで腕曲げてたからね。」 「今はどうなんだ?」 「後ろから3~4番目かな。」 「お母さん似だと思ってたけど、その調子なら身長は俺似になるかな。」 「まだ分かんないよ。」 父さんは笑いながら「そうだな。」と言った。 「この家もだいぶ明るくなったな。」父さんは天井を見上げながら言った。 「うん、そう思う。」アカリさんと、えりかがうちに来てくれてから、鬱蒼としていた庭には花が植えられて、なんにもなかったリビングにも色鮮やかな置物や家族写真が飾られた。何より父さんが笑うようになった。 「良かったよな?」父さんは聞いてきたけど、俺に対してなのか死んだ母さんに確認しているのか分からない口調だった。 「うん、良かったと思うよ。」 母さんが亡くなったのは、俺が4歳のときだった。正直、思い出そうとしても動いてる母親ではなくて、写真で見た母親を思い出す。 母親は高校卒業後ドイツに渡って10年ほどあっちにいた。家にあるアルバムもほとんどそのときの写真ばかりだ。 ただ一つだけ、おぼろげに思い出せるのは、綺麗な手の人があの北側の部屋で「空、これは子供の情景っていう曲なの。シューマンの恋人が『あなたって子供ぽい人ね。』って手紙に書いてそれを見て作曲したのだそうよ。」そう朗らかに言って「父さんにぴったりね。」とトロイメライを弾いていた。
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