一、シガーキス

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 マッチの燃え殻をそっとシンクの中に置いて、もうひとくち煙草を口にする。  初めて吸う煙草はインパクトが大きかった。何度か繰り返し咳き込んで、大きなため息をついたところで背中をふわりと抱きしめられる。白川が起きてきたのだった。 「あと一か月、待てなかったの。未成年でしょ」 「封が切られていたから魔が差した。……おはよう、先生。起こしちゃったかな。ごめんね」 「咳き込むのが聞こえたから。何事かと飛び起きたよ」  白川は上半身裸だった。スウェットのズボンだけ履いている。 「それ、俺のシャツだろ。探したよ」 「暗がりでつかんだらこれだった」 「寒くなったなあ。……俺も一本吸おうかな」  一彦が差し出したパーラメントの箱から、白川が一本抜いてくわえた。 「火、ちょうだい」 「マッチがリビングにあるよ」 「一彦からもらうから、いい。口にくわえて、吸って」  一彦が言われるままに持っていた煙草をくわえると、白川がその先に自分の煙草の先を近づけてきた。キスをするときのしぐさに似ている。白川の伏せた目もとにドキドキする。  チリリ、と小さな音がしたような気がした。  煙草と煙草の先が静かに赤く光って火が移る。白川は煙をゆっくり吸い込んでから、ほうっと吐き出した。煙草を吸う白川の姿は初めて見た。憎らしいほど格好よくて、おもわず見とれる。  白川が顔をしかめた。 「ああ、キッツい。こんなニコチンの強いオッサン煙草、初心者にはキツいでしょ」 「これって先生の煙草?」 「違うよ。登志也さんへの供養なんだ。封を切って数本は火を点けるけど、あとは湿気が来るまえに愛煙家の同僚に引き受けてもらう」 「その人は登志也さんのことを知ってるの」 「知ってるよ。古い付き合いだからね」 「ふうん」  白川がレンジフードの排気スイッチを入れた。煙が吸い込まれていく。  一彦はあまり深く吸わないようにして、もういちど煙草に口をつけた。頭がくらりとする。
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