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だから、カペラが気持ちを伝えたところでふたりの未来は変わらない。
宝石のような青い惑星がスクリーンにひろがっている。もしサテライトの閉鎖が中止になるなら、とカペラはそっと考える。未来は変わるだろうか。
それを見透かしてからうように、ライジェルが「侵略が失敗したら」とふたたび言った。
「しつこいですよ」
「昨日の続きをしてもいい?」
カペラの動揺に呼応したように通信のランプがまたたいた。熱を帯びた指先でスイッチをオンにする。
--ハロー、オペレーター?
今度は聞き覚えのある声だ。カペラは一呼吸おいてから応える。
--ハロー、こちらは地球観測室のサテライト、オペレーターはカペラです。
--よかった、繋がった。こちらはインペリウム通信本部、グリーゼだ。磁気嵐が発生したようだな。
--ええ、通信が復活して安心しました。先にこちらの報告をしてもいいですか?
平常心、平常心、と胸の内で唱える。ライジェルのことを意識の外へ追いやり、先ほどの地球からのコンタクトを説明した。
グリーゼも驚いていたが、侵略への影響はないだろうという見解だった。それを聞いて安堵と同時にかすかな虚しさがある。
--発信元はわかるか?
--いえ、まさか地球からとは思わず探知はできていなくて…申し訳ありません。やりとりのデータは残っています。
--ではデータを送ってくれ、こっちで報告を上げておく。
本部からの通信の本題は、シャトルシップの到着が早まるということだった。迎えはあと数時間でやって来る。
--片付けはどうだ?
--だいたいは終わっていますが、食堂などの生活スペースは今やっているところです。
--荷造りさえできていれば問題ない、ということだ。慌ただしくて悪いな。忘れ物がないようにだけ気を付けてくれ。以上だ。
--了解です。通信を切ります。
「迎えが早まるってみんなに言わないとな。ついでに片付けを手伝ってくる」
「え、あっ」
カペラは咄嗟にライジェルの服をつかんでいた。なぜそうしてしまったのか自分でもわからない。
「なに?」
「……ありがとう」
「どういたしまして、また悪い夢を見そうだからその手は離してくれ」
「ごめん」
力なく下ろした腕はしかしライジェルがすぐに手首をとった。痛いくらいにつかまれそのまま持ち上げられる。なにごとかと見上げれば顔が近づいた。
「さよならの挨拶だからいいだろ」
返事を待つことなくくちびるは重なっていた。あと数時間後には別れてしまう未来でも。まだ今は、触れられる距離にいる。
挨拶にしては長く深いキスをして、ライジェルはオペレータールームを出て行った。後ろ姿でひらひらと手を振って、昨日までと変わらない明日があるみたいに。
--了
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