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--ツーツーツー…
耳に届くのは電子音のみ。
--ハロー? 聞こえますか?
「どうした」
「本部からの通信が途切れました」
「妨害か?」
「まさか、地球人はそんなことできないでしょう。磁気嵐が発生しているのかもしれません」
オペレータールームには操作員が二人。観測室へ問い合わせをしているのがカペラ、そのとなりであくびをしているのがライジェル。
インペリウム帝星が局部銀河群太陽系第三惑星の地球を観測しつづけること百年、とうとう明日から本格的な侵略作戦が実行となる。
すでに観測室の機能は地球上へ移行されており、このサテライトは作戦実行を機に明日で完全閉鎖だ。半日後にはシャトルシップが到着し全員撤収する。
『磁気嵐が発生しているな。通信はしばらく無理じゃないか』
カペラからの問い合わせに観測室のミノリスが応えた。
「了解」
『緊急の用件じゃないといいが』
「まったくです」
太陽からの高エネルギー粒子による磁気嵐はしばしば起こるが、規模が大きくなると星間通信に影響が出る。
シャトルシップには支障がないため迎えを心配する必要はない。ただ、通信を遮断されたまま撤収となるかもしれない状況にカペラは不安を覚えた。
ライジェルは通信のスイッチを入れたり切ったりしているカペラをしばらく眺めてから、「なぁ」と話しかける。
「やることないなら早めに切り上げようぜ」
「出ていっていいですよ、私はもうしばらく様子をみます」
ライジェルが座席をぐるりと回転させる。どんな表情をしているのか、カペラは怖いものみたさで視線だけをむけた。
「…かわいくない」
「ええ、理解しています」
「昨日はかわいかったのに」
「……思い違いです。もしくは悪い夢でも見たのでしょう」
閉鎖前のサテライトには操作員の六名を残すだけになっていた。オペレータールームのふたりと観測室にいるミノリス以外の三名は後片付けをしている。
操作員の仕事は、観測用のマシンの管理と研究者から依頼を受けて地球を観測し、結果を報告することだ。
自分で観測がしたいと僻地まで来ている熱心な研究者たちは、すでに地球上の観測室へ移動している。人口密度の減ったサテライト内部は閑散としていた。
操作員の業務は交代制で、勤務シフトが組まれているためすれ違いが多く、会話は業務の引き継ぎ程度だった。それが観測室の機能が地球上へ移行し残る業務といえば片付けだけとなって数日、操作員の中には連帯感がうまれつつあった。
そういう雰囲気にのまれたのだ、とカペラが昨夜の愚行を恥じていると、二人の間の沈黙にホワイトノイズが割りこんだ。
--ザー、ザザッ、カチッ……ハロー?
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