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第5軍会議
「さてと――お前達を呼んだのは他でもない。魔王様から勅命を承ったからだ」
自分の屋敷に帰ってすぐに俺は部下を召集した。
召集と言ってもたった四人だけだけどね……。
「ローライム様、勅命とはどのようなもので?」
椅子に置かれた水っぽいような粘土ぽい様な、粘土のある液体っぽい物体が身体を震わせて訊ねてきた。
どこに声帯があるの不明だが、スライムなのに擬態化しなくても話せるのは不思議だ。
俺は人形なので当然話せるが、スライムの姿で話せたりはできない。
メルフレはスライム種を束ねるスライムキングだ。
グランドスライムの俺よりも下位だし、本体はかなり大きかったりするが俺と同じく姿形を変えられるから今は普通のスライムの姿をしている。
「ハバニール陥落の命令だ」
俺の言葉に驚いたメルフレがボコボコと泡を吐き出す。
「……それは我々にですよね?」
間違いではないですよね? と続けたそうなのは秘書のリリムだ。
彼女はサキュバスを統括してる。
まぁ、気持ちはわかる。
雑魚部隊とか落ちこぼれ軍とか陰口言われて、補給や物質の調達の後方でしか動いてなかった俺たちが前線でいきなりこんな任務つけられたら、命令間違いだと思いたくなるよ。
……まぁ、影で仕組んだのは俺だけどね。
「リリムさん、何を言いますかっ! これほど困難な任務を与えられるなどなんと光栄なことでしょうかっ! これを達成して我々第五軍ありと魔王軍に示すのです! おぉ! 邪神様のお導きです! エクセレェントォ!」
ボーリングの玉から人の身体が生えているような奇妙な魔族はドッペルゲンガーのファントムだ。
触れた相手の外見と魔力などの能力の半分をコピーできる、と普通にすごい能力だが、数が少ないこと、コピー相手の半分しか力が出せないので一騎討ちではほとんど勝てないから不遇の立場にいる種族だ。
何でも大袈裟なオーバーリアクションがウザいが、ボーリング頭なので滑稽に思えてしまう。
「だが、魔王様の命令ならとにかくやるしかあるめぇよ」
訛りのある言葉遣いの金色の長髪とガタイのいい体つきをしているのは、ガウリィ。見た目はどこからどうみても人間なのだが、立派な魔族――人狼だ。
この世界の人狼は満月じゃなくても変身できるのだが、変身しないと普通の戦士程度の強さなので、脳筋部隊では受け入れてもらえなかったのだ。
俺の部下なら一番強いのに。
他にもアラクネとかもいるけど、今回は呼んでない。
正面から堂々と戦ったら玉砕確定なので、トリッキーな能力持ちを集めたのだ。
「まぁ、お前達が挑む前に諦めたくなるのはわからんでもないが、安心しろ。ちゃんと策を練る」
俺の部下は脳筋は少ない。
というのも、戦闘力では低い者が多いからだ。
頭を使って生き延びてきたので、作戦の重要性もわかってる。
「この種族だと使える兵はスライムを除くと精々50人ほど。これで、第一や第四軍でも落とせないハバニールを落とすなんて、そりゃ邪神様でも無理だと思いますよ?」
「それにあの都市には英雄並の強さの騎士もいるのでしょう? 私達が挑んでも玉砕ですよね」
「変身しないと私なんてその辺の魔物にも勝てませんし」
「普通に挑んでも勝てる要素はないですぜ?」
「誰が普通に挑むか! お前らの弱さは上官の俺が一番知っとるわ!」
ったく、誰が保護してきたと思ってんだ。
「ちゃんと策は練る。お前らは俺の命令があるまで、いつでも出れるように準備しておけ」
俺の言葉に四人は不安半分、安堵半分の顔色で部屋から退出していく。
……まずは下調べだな。
◆
「報告書を書いたお前らならハバニールがどんな都市なのかわかるよな?」
俺が呼び出したのは第一、第四軍に貸し出していた文官の二人だ。
「はっ! ハバニールは魔王領と人間領の境で地形的にはⅩの点の部分になりますね」
左右が谷になっており、狭い場所で突撃しかできないから、悉く的にされたらしい。
深さ不明の谷を越えた話は聞かないから谷底には恐るべき強さの魔物が住んでるのではないか、と言われている。
「防衛ですが、対大型魔物用のバリスタ、滞空魔方陣、魔法弓などで迎撃され、壁には雷の魔法が発動する仕掛けが施されており、触れれば深手をおいます。第二軍が攻めた時は半透明の膜の様な結界がはられており、壁には辿り着けなかったそうです」
さらに扉は魔鉄と鋼鉄の二重門で壁の内側も補強されており、巨人族が投げた岩などでは傷一つつかないらしい。
しかも、結界もあり、バリスタは最新式で巨人族の皮や鱗の鎧なら易々と貫通し、頭部を粉々に吹き飛ばす威力の代物だったそうだ。
俺の部下なら数人まとめて粉々だな。
「さらに第一軍の将軍ドグウェル様が近衛兵と共に扉へ迫った時に向こうから現れた戦士がドグウェル様と互角の戦いをしておられした。恐らく英雄級の手練れと思われます」
う~ん、聞けば聞くほど正面突破は難しいな。
地形上大規模な突撃はできず、密集したところに魔法や弓矢を叩き込まれ、それを越えたところで、強固な壁と触れればダメージを受ける雷の魔法の罠。
しかも、門自体も木製ではなく金属製でしかも二重ともなれば、弱った少人数の魔族で突破できるものでもないか。
しかも、突破できる戦力で攻めても英雄がそれを迎え討つってどんだけ厳重な守りなんだよ。
恐らく防衛予算の全てが振り込まれたんだろう。
じゃなきゃ、これだけ攻めてるのに、矢もバリスタも尽きないはずがないのだ。
魔法具だって費用はばか高い。
ドグウェルと互角の強さの英雄か
……。幹部の面々でも正面突破は困難だぞ……。
先代なら突破できるが、勇者と相討ちにされたしな……。
手はあるのだが、あれは代償がでかすぎる。
都市を陥落させて、英雄だけ倒せばいい状況くらいにならないと切れないカードだ。
予定通り絡め手でいくとするか……。
「よくやってくれた。下がってよい」
俺は側に控えているリリスに文官二人に褒賞金を渡させて部屋から下がらせた。
「ローライム様、本当に私達でハバニールを落とせると思いますか?」
報告を聞いて顔を青ざめさせたリリスだが、ぶっちゃけ俺もそう思う。
正面突破は万に一つも無理だと改めて思い知らされただろうからな。
まぁ、正面突破するつもりもないから問題ないが。
「別に突撃するつもりはないからな。リリスだって第五軍の能力はわかってるだろ? 巨人族メインの第二軍で突破できなかったんだから、他の軍でも突破は困難だってのは?」
「わ、わかっておりますが……」
「安心しろ。魔王様から秘策も授かってるし、ちゃんと策はある」
「魔王様からですか? それは……安心ですね」
顔色から全然安心できてないのがわかる。
……いきなり魔王に着かされて、人望ないもんな、アスモは。
俺は部下からの評価でも低いアスモに同情しつつ、リリスをも退出させて一人になる。
「はぁ……」
今までで一番重いため息が出た。
アスモの前では強気を演じないといけないし、部下の前でも弱音は吐けない。
中間管理職ってどこでも大変だよ……ほんと。
無茶ぶりな上司も困るが、部下の統率がとれない新米上司でも組織は弱体化してしまう。
しかも、こんな戦争中みたいな逼迫した状況なら生死に大きく影響する。
だから、アスモも魔王らしく演じてもらわないといけないし、俺はアスモを信頼して自信をもって部下に指示しないといけない。
「今までの連中みたいにバカ正直に正面突破はできない。さりとて、空からの攻撃も無理。となると――ハンニバルみたいになるしかないか」
ありえないと思われるルートを攻めるからこそ得れる成果は絶大だ。
俺は歴史を思い出して外を見る。
邪神でも神でもいいので、どうかよろしくお願いします。
神頼みしたくなるくらいの策に俺は内心はため息しかでなかった。
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