●あり得ない

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スマートフォンの液晶画面を立ち上げ、検索サイトに 「エアコン 格安 修理」 と、瑞穂は入力すると、表示された幾つかのサイトの詳細を、それとなくといった感じで順に確認していった。 しかし、「高額な追加請求をする業者が近年増加しております」という文言にひるんだ瑞穂は、スマートフォンの画面表示を消すと、扇風機から発せられる温風を、しばらくの間、何をするともなく浴び続けた。 「電器屋に行くしかないか」 瑞穂は、ポツリと呟いた。 修理にせよ、買い換えるにせよ、その後のアフターサービスを考えれば、やはり家電量販店だ。 ネットで、素性の分からぬ適当な業者に修理を依頼して、高額な修理費を請求されるだけならまだしも、女独り身のこの部屋で変な事をされたら、悔やんでも悔やみきれない。 ──こういうのは目先の金額で決めるんじゃなく、やっぱり名前のしっかりしたトコロに頼むべきだよね。 瑞穂は立ち上がると、汗まみれの衣服を洗濯機へと投げ入れ、部屋着であるTシャツとジャージにそそくさと着替えた。 そして、手首に巻いたヘアゴムで髪の毛を束ねると、台所に行き、買ってきた「ざるラーメン」の調理に取り掛かる。 「ダメだ、暑い……」 しかし、立ち上る湯気に気を削がれた瑞穂は、一度コンロの火を止めると、先程クローゼットから引っ張り出した扇風機を、今度は台所まで移動させた。 「明日の朝、シャワー浴びなきゃいけないかな……」 扇風機の温風を浴びながら瑞穂は呟くと、「ざるラーメン」の麺を煮えたぎった雪平鍋へと放り込む。 二分程、麺を熱湯の中で泳がせると、瑞穂は麺をざるにこし、冷水と氷でもって麺にまとわりつくを丹念に取り除いていく。 続けて付属のゴマだれを器に入れ、製パン会社のキャンペーンでもらった皿に、先程冷水でしめた麺を盛ると、瑞穂はその二つをしかめ面でTV前のリビングテーブルへ持っていった。 冷蔵庫から、室温とは対照的に冷えきった缶ビールもリビングテーブルへと持っていくと、瑞穂は先程台所に移動させた扇風機を今度はTV前に移動させる。 「……いただきます」 扇風機の送風ボタンを押しながら瑞穂は独りごちると、TVのリモコンを手に取り、スイッチを入れる。 適当にチャンネルを変え、特に目を引く番組が無いと判断した瑞穂は、DVDレコーダーに録画された芸人のトーク番組を眺めたまま、缶ビールを一息に飲み干した。
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