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「今日は、気を引き締めようと思って、ANNICK GOUTAL(アニックグタール)のオーダドリアンをつけてきたんですよ。
レモンの香りで、ちょっと目を覚まさせようかな、って思って。
いつものクロエじゃ、ミドルで甘くなっちゃうから、余計眠くなると思ったので、今日は残念だけど封印ッス。
っていうか、和田マネージャーに迷惑をかけないよう、こっちも色々と気を使っているんですからね」
「そいつは、ありがとうと言わせてもらおうか」
和田マネージャーは、心持ち頭を下げた。
「香水の詳しい話は、俺にはあまり分からないけど、高畑さんがミスしないように心がけている、って気持ちだけは分かったよ。
そして、それに関しては、さっきも言ったように俺的にも有難い。
高畑さんにしろ、この間の紗倉さんにしろ、誰かがヘマしたら、俺はまた得意先に謝りに行かなくちゃいけないからな。
ところで、エアコンどうするの?
何か、この真夏日、まだ3日は続くって昨日のニュースで言ってたぞ。
この2~3日も、もちろんだけど、夏場ずっと高畑さんがその調子だったら、いくら気を使っているとはいっても、上司の俺としてはさすがに一言物申すかもしれないよ」
「そこなんですよね……」
瑞穂は眉根を寄せると、またアクビを一つした。
「取り敢えず、今日電器屋に行って何とかしてもらおうと思います。
出来れば、買い換えじゃなく修理にしたいんですけどね。
こないだのGWに、ちょっと友達と旅行に行って、貯金結構使ったから、ボーナスまで貯金はそんな使いたくないんですよ。
けど、ボーナスもらう頃には夏本番だから、また蒸し暑くなってるだろうし、電器屋に見てもらった結果、修理じゃなく買い換えるって話になったら、どうしようかなって思って……」
「何とかしてあげようか?」
「はい?」
腕組みしながら放たれた和田マネージャーの言葉に、瑞穂は首をかしげた。
「俺の知り合いに、電器屋やってる奴がいるんだよ」
和田マネージャーは瑞穂の隣の席に腰掛けると、したり顔で続きを語った。
「といっても、ヤマダとかヨドバシみたいに大手じゃないけどな。
昔で言う『ナショナルショップ』を、親から受け継いで経営してるってレベルだよ。
修理くらいなら、そいつに頼めば格安でしてもらえると思うし、買い換えにしても大分安く出来ると思う」
「えっ、いいんですか?」
「別にいいよ」
和田マネージャーは淀みない口調で返すと、右目をつむる。
「『暑くて寝れなくて、仕事出来ませーん』、なんて調子で毎日出社されたら、さっきも言ったように俺的にも上司として困るからな。
昼にでも電話して、頼んでおいてやるよ。
で、どうする?
今日、早退してその電器屋に来てもらう?
簡単な故障なら、今日中に修理してくれると思うけど」
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