●クロエは封印っす

2/4
前へ
/285ページ
次へ
「今日は、気を引き締めようと思って、ANNICK GOUTAL(アニックグタール)のオーダドリアンをつけてきたんですよ。 レモンの香りで、ちょっと目を覚まさせようかな、って思って。 いつものクロエじゃ、ミドルで甘くなっちゃうから、余計眠くなると思ったので、今日は残念だけど封印ッス。 っていうか、和田マネージャーに迷惑をかけないよう、こっちも色々と気を使っているんですからね」 「そいつは、ありがとうと言わせてもらおうか」 和田マネージャーは、心持ち頭を下げた。 「香水の詳しい話は、俺にはあまり分からないけど、高畑さんがミスしないように心がけている、って気持ちだけは分かったよ。 そして、それに関しては、さっきも言ったように俺的にも有難い。 高畑さんにしろ、この間の紗倉さんにしろ、誰かがヘマしたら、俺はまた得意先に謝りに行かなくちゃいけないからな。 ところで、エアコンどうするの? 何か、この真夏日、まだ3日は続くって昨日のニュースで言ってたぞ。 この2~3日も、もちろんだけど、夏場ずっと高畑さんがその調子だったら、いくら気を使っているとはいっても、上司の俺としてはさすがに一言物申すかもしれないよ」 「そこなんですよね……」 瑞穂は眉根を寄せると、またアクビを一つした。 「取り敢えず、今日電器屋に行って何とかしてもらおうと思います。 出来れば、買い換えじゃなく修理にしたいんですけどね。 こないだのGWに、ちょっと友達と旅行に行って、貯金結構使ったから、ボーナスまで貯金はそんな使いたくないんですよ。 けど、ボーナスもらう頃には夏本番だから、また蒸し暑くなってるだろうし、電器屋に見てもらった結果、修理じゃなく買い換えるって話になったら、どうしようかなって思って……」 「何とかしてあげようか?」 「はい?」 腕組みしながら放たれた和田マネージャーの言葉に、瑞穂は首をかしげた。 「俺の知り合いに、電器屋やってる奴がいるんだよ」 和田マネージャーは瑞穂の隣の席に腰掛けると、したり顔で続きを語った。 「といっても、ヤマダとかヨドバシみたいに大手じゃないけどな。 昔で言う『ナショナルショップ』を、親から受け継いで経営してるってレベルだよ。 修理くらいなら、そいつに頼めば格安でしてもらえると思うし、買い換えにしても大分安く出来ると思う」 「えっ、いいんですか?」 「別にいいよ」 和田マネージャーは淀みない口調で返すと、右目をつむる。 「『暑くて寝れなくて、仕事出来ませーん』、なんて調子で毎日出社されたら、さっきも言ったように俺的にも上司として困るからな。 昼にでも電話して、頼んでおいてやるよ。 で、どうする? 今日、早退してその電器屋に来てもらう? 簡単な故障なら、今日中に修理してくれると思うけど」
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

351人が本棚に入れています
本棚に追加