●クロエは封印っす

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和田マネージャーからの提案を聞き終えた瑞穂は、すぐに返答しようとはせず、しばし沈思した。 正直、悪い話ではない。 実を言うと、和田マネージャーに気がある瑞穂にとって、持ちかけられたこの提案は、和田マネージャーとの距離を縮める、絶好の機会でもある。 エアコンの件にしても、相場より安い金額で修理してくれるかもだし、本来ならこの話に素直に乗った方がよさそうだ。 ──しかし、だ。 「……あっ、さすがに早退はいいです」 瑞穂は苦笑いを浮かばせると、睡眠不足で鈍った頭で思考を重ねている、というのもあってか、ゆっくりとした口調で和田マネージャーに対して切り出した。 「エアコンが壊れたのを理由に早退って、『私用』でごまかしても、さすがに周りに申し訳ない気持ちになっちゃいますからね。 だから、早退してまで、っていうのはいいです。 出来れば、明後日……。 土曜日にしてもらえたら、有難いんですけどね。 会社も休みですし。 で、ワガママを言わせてもらえば、その日に和田マネージャーに付き添ってもらえたら、嬉しいんですけど……」 「あっ、俺も付き添うの?」 瑞穂の意外な切り返しに、和田マネージャーは目を丸くさせた。 「はい」 苦笑いを保ったまま瑞穂は頷くと、続きを語る。 「昨日も、ネットで検索とかしてた時に思ったんですけど、大手の電器屋さんならともかく、小さな電器屋さんとかだと、ちょっと不安なんですよね。 名前がそんな知られてないから、もしかしたら何かされるかも、っていうか……。 もちろん、和田マネージャーのお知り合いを疑う気はありません。 けど、女独りで住んでる部屋に、知らない男の人が入ってくるってのは、さっきも言ったように少し抵抗と不安があるんです」 女独り身の部屋に訪れる、見知らぬ男性。 天授と言ってもいい、和田マネージャーからの提案に瑞穂が難色をしめしたのは、この懸念材料が原因であった。 もちろん、和田マネージャーの知り合いであるから、仮に自分と二人きりという状況になっても、特に何か起こる事はないであろう。 が、瑞穂はそのミリ単位の「懸念材料」を取っ掛かりとして、どうにか和田マネージャーとの距離を縮めたい、という思いもあったのだ。 「そういうモノなのかね……」 さすがに、強引すぎたらしく、和田マネージャーは「想像出来ない」といった様子で腕組みをすると、斜め上を見つめたまま、しばらく黙りこむ。 「でも、まぁいいか」 そして、結論が出たのか、和田マネージャーは瑞穂に視線を戻すと、笑顔を浮かばせながら語った。
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