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「じゃあ、土曜は高畑さんに付き合う事にするよ。
考えてみれば、確かに身勝手で無神経な話だしな。
自分で話を持ちかけてるのに、電器屋だけ家に寄越して、『俺は知らない』ってのはね。
で、修理が終わったら、俺と高畑さんとその電器屋の三人で、メシでも食いに行こうよ。
高畑さん、足塚でしょ?
俺、その近くで、結構穴場でうまい店知ってるんだ」
「えっ、いいんですか?」
予想を上回る話の好転ぶりに、瑞穂の心は思わず高鳴った。
「別にいいよ、俺の方は特に用事もないしね」
和田マネージャーは腕時計で時刻を確認すると、立ち上がる。
「それに、その電器屋の奴も労ってやらなきゃいけないしね。
急な、頼み事をお願いする訳だし。
一応、その電器屋の奴には話を伝えておくよ。
ウチの会社の女子社員の家のエアコンが壊れたから、見てもらいたいんだけど、高畑さんが美人だからといって、くれぐれも変な気は起こすんじゃねーぞ、って」
「やめてくださいよー。
私、その電器屋さんと会ったら、ソッコーで『こんなので、スミマセン』って、謝らなきゃいけないじゃないですか」
「冗談冗談。じゃあ、そういう事で。
ゴメンね、寝てるトコ起こして」
和田マネージャーは笑い声を上げると、踵を返し、軽やかな歩調で本来の自分の席である斜め向かいの席へと帰っていった。
──和田マネージャーと食事。
ダメ元でも言ってみるものだな、と瑞穂は思った。
贅沢を言えば、ランチじゃなくディナーが良かったが、まあいい。
和田マネージャーと食事が出来る事に、変わりはないのだから。
電器屋は少し余計な存在だが、それは仕方のない話だ。
むしろ、その電器屋を取っ掛かりとして、和田マネージャーとの距離を縮める事が出来たのだから、今回は我慢すればいいのだ。
──次は二人きりで食事に行けるよう、和田マネージャーにしっかりとアピールしなきゃね。
意気込んだ瑞穂は、再び組んだ両手の上に頭を載せ、仮眠を取る事を試みるが、気持ちの高鳴りもあってか、殆ど仮眠を取る事が出来ず、そのまま朝礼を迎える事となった。
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