兵乱前夜

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『………なるほどなるほど、では宗教団体ではないと仰るのですね。』 「はい。あくまでスペース能力開発セミナーです。我々は信者ではなく顧客と呼び、入会時にはそう伝えます。脱退も易く、教義もなく、会則もそれ程多くありません。」 『ふーむ、確かに戴いた入信資料には…』 「入会です。」 『はい?』 「入信ではありません。教義も聖典も存在しないと言っている。どうやら貴方は私をどうしても教祖に仕立て上げたいようだ。」 『いえ、とんでもない。大変失礼しました。入会時に配布される資料にはそれ程多くの会則はないようですね。』 「はい、スペース能力の開発に雁字搦めの規則は不要です。寧ろ妨げになる場合が多い。」 『なるほど。施術というか、そのスペース能力の開発についてお伺いしても?』 「勿論です。ただ個々人に寄り添い開発を推し進めていく関係上、画一的な施術は行いませんので、例を挙げ述べても宜しいでしょうか?」 『はい、どうぞご自由に。』 「例えば、医学部受験で成績に伸び悩む方がおられました。」 『ふむふむ。』 「相談を受け、私がその方にさせたのはまず休む事です。」 『ほう?』 「その方は十分に勉学に励んでおり、その上で成績が伸びず、不足しているのではと更に勉強しておられました。目的も何も失い、肉体精神を虐め抜き、ただただ勉強する為に勉強していたのです。」 『なるほど、だから休めと。』 「はい、十分な休息と栄養を摂り、1日何もさせませんでした。」 『どうなりましたか?』 「その方は次の日、勉強したくなりました。」 『変わらなかったと?』 「いいえ、1日何もしなかった事で目的を思い出したのです。目的意識を持って勉学を行う事は、ただ漫然と行った場合と比べ精神的苦痛が低減されます。効率的になった事で肉体的にも楽になりました。その後も何度か必要なタイミングでカウンセリングとそれに併せた施術を行い、その方は医学部に見事進学を果たしました。彼はその能力を既に持っていたのです。私はそれをスペース能力開発セミナーによって表在させたのです。」 『ふーむ、ならば貴方の施術というのはその……隠れた力を呼び覚ますようなものであると?』 「はい、その通りです。」 『それは所謂……スーパーパワーとは異なる?』 「全く異なります。私のスペース能力開発セミナーに於いて、奇跡というのは起こりません。例えば幼な子を次の日にプロリーガーにするような事は出来ませんし、今すぐ大金持ちにしてくれと言われても不可能だと答えます。顧客の元々持つスペース能力を表に出し、より良い方向へ導くための開発セミナーなのです。」 『ふむ………で、そこに会則は必要ないと?』 「はい、先程も述べましたが強い縛りは無意味です。ただまるきり自由という訳でもありません。スペース能力開発に必要であるならば一時的に行動を厳しく抑制することはあります。」 『あるのですか?』 「あります。」 『それはどういった場合?』 「過度な長時間労働や夜間の長時間徘徊、刺激の強い娯楽は制限します。」 『何故?』 「単純に精神肉体に悪影響だからです。影響が僅かであるなら制限する事はありませんが、依存性が高いと判断した場合に於いては厳しく制限します。」 『それは信……失礼、顧客の権利を奪う事ではないと?』 「入会は本人の意向なしに行う事はありませんし、何度も言うように脱退に際して厳しい規則もなく、またその制限を破ったとしても罰則もありません。出来なければスペース能力が発露しないだけです。流石に返金する事はありませんが権利の侵害には当たらないと考えます。あくまで施術が完了するまでの間です。施術時以外には施設に滞在する必要もありませんし先程述べたような制限の必要がなければ施術中でも自由に行動できます。」 『ふむ、承知しました。次の質問に移ります。』 「どうぞ。」 『高額な会費について、一体得た資金はどういったところに使われているのかという疑念が持たれていますが。』 「スペース能力の開発にかかる費用が実際高額である事は肯定します。認めざるを得ません。しかし、その用途についての疑念に関しては、スペース能力開発セミナーに参加した事のないものが勝手に言っている事です。」 『後ろ暗い事はない?』 「参加して頂ければ私になんら隠し立てするような事が無い事を理解して頂けると思います。大半は税金や施設の維持費などに充てられ、手元に残る額はそれ程多くはありません。会を運営する者達の生活費を引くと更にその額は減ります。赤字でないだけ、と表現しても誤解が生じないと、それくらいなものです。立ち入り調査も受けていますし、所得を隠すような事もしていません。」 『ふーむ、その施設について。調査書によると用途不明の建物が何棟かあったようですが…』 「ミスリードは止めて頂きたい。とても悪質です。」 『でも用途不明と書いてある。』 「立ち入り調査に於いて、その施設がいかなるもので、どういった目的で使用するのかについて何度も回答しております。その調査書に関わるどなたかがその回答を理解出来なかっただけでしょう。それにしたところで、こちらの回答を記さずに用途不明とだけ記載するのには悪意を感じざるを得ません。強く抗議します。その調査書は何方のものですか?こちらに渡されたものには目を通しているはずですが。」 『失礼、私は原稿として取りまとめられたものを読んでおります。』 「出所も知らぬ情報を公然と放送するのですか?」 『私が知らないというだけです。この資料を作成したものは承知しております。この場が終了した後にはなりますが、宜しければ可能な範囲で資料の移しをお渡ししましょう。』 「いえ、それよりまず今この場で訂正して下さい。」 『訂正?』 「用途不明と言うのは誤りです。立ち入り調査の結果は問題ありませんでした、と仰って下さい。用途不明の施設があるのかもしれない、というままで放送を終える事は私達の印象を貶めうる重大な過失です。誠実さに欠ける。」 『いやしかし資料に…』 「例えば私が貴方達へのデマをこの場で叫び、情報元は放送後にお伝えしますと言えば、貴方達はそれを容認するのか。謝罪は必要ありません。正しい判断を求めます。」 『…………………立ち入り調査では問題はみつからなかったようです。訂正し謝罪致します。次の質問に移ります。』 「ふーむ……まぁ飲み込みましょう。ありがとうございます。続けて下さって結構です。」 『…………どうも。会則の一つ目にスーパーパワーの原則禁止を挙げられていますが…』 「はい、スーパーパワーは原則禁止しています。」 『その理由は?』 「現代人はスーパーパワーに頼り過ぎているからです。本来持つ能力を忘れてしまっているのです。」 『スーパーパワーなしでは生命活動が危ぶまれる方もいますが。』 「はい、なので原則禁止です。生命に関わるような場合は許可します。なるべく使わないという事です。」 『現代的な生活はスーパーパワーなしで成り立つものではないでしょう。貴方は原始的な行動を旨とするという事ですか?』 「原始的という表現は正しくないように思われます。スーパーパワーを制限するというだけです。原始的な行動をわざわざする訳ではない。」 『ユニバーサルサプライを口にせず、火を起こして調理を行うというのは原始的行動に当たるのでは?』 「そうは思いません。食事に満足する、感謝を行う事は精神的苦痛を緩和する事にとても役立ちます。施術として行っています。そうですね………貴方は澱粉や炭水化物といった食品を口にした事がありますか?」 『皮肉ですか?泥の付いたものは口にしません。』 「別に土の付いたものを食べる訳ではないのですが………まあ考え方はそれぞれでしょう。よろしい。例えば地球人類は澱粉や炭水化物といったものをそのままでは栄養にする事が出来ません。加熱によってアルファ化し、漸く栄養として体に取り込むのです。猿などは生でも栄養にできます。地球人類は加熱調理する術を手にした事により生で食べる機能を失う方へと進化したのです。」 『もしかして猿でないから原始的でないと仰る?』 「現代の地球人類が未だ加熱調理したものを栄養に出来る、その機能を失っていないという事実が、その先へと進んでいないという証になると思います。残された機能を原始的と切って捨てるべきではありません。」 『加熱による発癌性物質の生産が……というか、そんなものをわざわざ口にする意図が不明です。身体に悪影響なのでは?』 「私は10年以上加熱調理したものを食べていますが、癌になっていませんし体調も優れています。私が特に好むのはオムスビ・ライスボウルです。貴方に自慢しても?」 『はっ、どうぞどうぞ。私が癌に罹らないための方法をご教授願います。』 「古代の書物を紐解くと、人間は様々な調理法で栄養を摂取しておりました。中でもヤパンと呼ばれる種族は諸国より様々な文化を取り入れ統合し独自の発展を遂げていたようです。ヤパンではライスが常食されているようでした。」 『ライス?原生動物?』 「その時代は既に野生動物の狩猟は禁止されています。植物です。」 『草ですか。』 「その実です。元はオコメ・リクトーといって地面に生えている植物ですが、ヤパンではそれを流水下に沈め、土壌の栄養を入れ替える方法によりライスの安定生産に成功したようです。私はアースの原生植物調査によりこのライスを再発見、大量生産に成功しました。」 『そこまでしてユニバーサルサプライを口にしないのは一体何故です?』 「単純に美味しいのです。ライスの実だけ取り出しゲイシャという調理器具に水と共に入れ火にかけます。」 『ゲイシャ?直接火にくべるのではなく?』 「ライスの実は小さく細かいのです。ゲイシャはそうですね……蓋の出来る金属製の容器です。ライスは加熱と共になんとも言えない良い香りを発します。十分に加熱したらゲイシャを火からあげ、蓋をとった時の湯気がまた堪らない。芸術的に白く光る美しいライスを他の容器に一度移し火傷しない程度に冷まします。」 『そして口にする?』 「いえここからです。塩水に手を曝します。」 『曝す?何の塩ですか?』 「海水から抽出したもので、主成分は塩化ナトリウムです。」 『それは手指消毒?あるいは儀式的なものですか?』 「いえ、その手でライスを容器から掬いとり、成形するのです。」 『…………素手で?』 「はい。成形した後、海藻を砕いて干したもので包みます。」 『……………それを食べるんですか?』 「勿論ですとも。コレが実に美味い。美味いのです。初めて食べた時、私は涙を流してヤパンに感謝の祈りを捧げました。因みに発癌性物質の産生は過度の加熱によるオコゲライスが原因です。ゲイシャ内の上澄みのライスで作ったオムスビにはオコゲライスは付着しません。」 『申し訳ない、野蛮で不潔であるという感想です。理解出来ません。』 「ふっくらとしたライスの白に、パリパリと歯触りの良い海藻の黒。これは運命的な取り合わせです。ライスの甘い香りと塩水の辛味もまた運命的です。何より柔らかく、瑞々しい。もちもちとした食感が咀嚼する度に歯牙の上で躍動するのです。これこそが生きるという事です。生命を育み、感謝して食べる。」 『ただ感謝する訳にはいかないのですか?感謝の代償が生命というのはいかがなものか。植物ライクの知的生命体も近年発見されましたが。』 「それはとても難しい問題です。ただ現在そういった事に対する法的な規制は存在しません。」 『それはユニバーサルサプライを体内に直接的に補給しえない鉱物人種などに配慮したものです。貴方はライスを食べなくても死なないでしょう。』 「それは解釈によるでしょう。いずれにしろ法的に規制がないのであれば、私は私の思想に沿って口にするものを選ぶ権利がある。違法となった暁にはライスを食するのを止めます。続けても?」 『どうぞ。貴方のグロテスクな思想を詳らかになさって下さい。』 「ライスとヤパンの関係はとても深く、非常に興味深い。オムスビ・ライスボウルに類似した調理で、スシ・テンプラゲイシャというものがある。コレはその時代の連行食です。これもまた美味い。ライスにビネガと呼ばれる酸性溶液を混ぜ込み具材を乗せて食べます。具材は様々ですが魚などの海洋生物が好まれていたようです。ビネガの酸によって乗せられた具に雑菌が繁殖するのを抑制していたようです。」 『ふん?加熱調理は菌の繁殖を抑える為ではないのですか?』 「ライスはそうですが乗せられる具は加熱調理しないものもあります。」 『…………はい?すいません、その………えっと………はい?』 「なんでしょう?」 『あの、えっと………加熱しない?』 「はい、具材によっては加熱調理を行いません。」 『まさか貴方その………生食という意味ですか?』 「はい。何か?」 『……………ぇぇ……………』 「そして、私は革新的な発見をしました。先程述べたオムスビはとても栄養価の高いものですが、動物性蛋白に欠けます。私はオムスビにスシの具材を充填する事によりそれを補ったのです。私の創作したオムスビ・コンパクションを食し確信に至りました。オムスビ・ライスボウルは過去になったと。」 『………もう結構です。』 「元々スシ・テンプラゲイシャはヤパンでポピュラーな連行食です。その具材がライスにソウマッチするのは必然でした。ライスが具材に、具材がライスに恋をしたのです。一口二口と食べ進めるうちに、具材に歯牙が到達した時の感動といったら…」 『もういいです止めて下さい。どうか止めて頂きたい。気分が悪くなってきた。』 「そうですか?これははっきりと恋愛レボリューションですよ?」 『その口を今すぐに閉じてください。不愉快です。』 「確実にレボリューション21へと誘いますよ?」 『何故、貴方が今私の前で会話しているのか疑問です。少なくともスペース能力の開発は胃腸を強固にするようですね。』 「実際ユニバーサルサプライを食べ続けるよりは消化能力が向上します。胃腸に適度な負荷をかける事もまた、スペース能力開発の為の施術です。セミナー入会時の検査時に味覚と舌をもつ顧客は先ずオカユ・ウメチャズケと呼ばれるものを食べます。これはライスをオカユスープという液体に浸し、消化の良いゾウスウィート状にしたものです。段階的にライスや具材を固形に近づけ身体を慣らしていくのです。」 『私は止めろと言っている。貴方はどうかしていると言わざるを得ない。会の人間にまともな知能を持つ者はいないのか?』 「段階的に行えばまず身体に障害を来す事はありませんが、念のため生命体に精通した優秀な医師も常駐しております。ゼロリスクを求めては物事が進む速度が鈍る。カバー出来れば良いのです。医療に頼れば良いのです。」 『その医療にはスーパーパワーが用いられますが?』 「どうぞ誤解なきよう。私はスーパーパワーを否定している訳でも拒否している訳でもありません。」 『貴方の創立した会の規則に使用禁止と書いてあると私は言っています。それは否定ではないのですか。』 「否定ではありません。私が会則でスーパーパワーを原則禁止としているのは、あくまで元来持つスペース能力の開発に障害となる事が多いからです。」 『スーパーパワーが邪魔であると?』 「それは肯定いたします。スーパーパワーの発現によって地球人類が一日に出来る事が増え過ぎた。肉体が精神がそのスピードに追い付いていないのです。ならば適切な休息を与えなければならない。先程例に挙げた方もまさにそれです。彼はスーパーパワーの過度な使用に身体がついて行かず、疲弊し効率が落ちていた。装置による休息では追いつかない程に疲弊しきっていた。」 『装置による疲労回復は休息に値しないと仰るのですか?』 「そうは申しません。装置による疲労回復によって肉体は活動に耐えます。あるいは精神も回復するでしょう。しかし装置によらない、いわゆる睡眠もまた必要な休息なのです。」 『睡眠………貴方は赤ん坊のように日に何時間もカプセルに浮かんでいる事がある?』 「いえ、カプセルは使用しません。ベッドで布に包まって睡眠を摂ります。」 『ベッ………ふふっ、はっはっ………いや、失礼。ベッドというのはあの……お伽話のお姫様の眠る……ふふっ、あのベッドですか?』 「恐らく貴方が今想像されているものよりは簡素なものですがそのベッドです。そもそも人間の睡眠には2種類あり…」 『もう結構。貴方の自慢話はどうやら私の精神衛生に多大な汚染を齎すようだ。聞いていて愉快なものではない。この紙に書かれたつまらない質問を続けるのが私にとって最良であると感じる。貴方や貴方の顧客はベッドをどれくらいの頻度で使用するのですか?』 「日に7時間半睡眠を摂ります。」 『…………日というのは一日という意味?』 「はい、24時間で一日計算です。」 『貴方は効率的と先程述べていたと記憶していますが。』 「はい、睡眠、食事、適度な運動を続ける事で肉体と精神を良質な状態に昂め、人間が本来持つスペース能力を発露させます。目覚めた人間は効率的に日々を送り、そこに至る事でスーパーパワーの極限指向型波動砲撃の使用にも限定的ではありますが耐える事ができます。肉体の崩壊が認められなかった事が報告されております。」 『待って下さい。極限指向型波動砲撃の使用はユニバーサル統一意思法に違反しています。』 「ラボでの試験データです。何処かに向けて撃ったのでなければ違法には当たりません。」 『極限指向型波動砲撃を放ちうる武力を持つ事は大きな問題です。また試験的運用だとしても砲撃手に肉体崩壊を招きかねない事を強要するのは重大な星人生命権侵害に当たります。貴方のセミナーでは権利の侵害が合法となるのですか?』 「顧客にはスーパーパワーを定期的に放出しなければならない者もいます。その発散についてデータをとる事はユニバーサル統一意思法に於いて違憲には該当せず、また星人生命権侵害でもないと存じます。寧ろそういった方にスーパーパワーの制限を強いる事こそ権利の侵害だ。得られたデータはパブメディックインユニバースに論文として公表されていますし、倫理審査も通った公的な試験です。違法ならその時点で問題になっているのでは?」 『武力の誇示は星間の軋轢をうむでしょう。』 「それを武力の誇示とするならば、何故貴方はご存知なかったのか?軋轢も特にうまれていないように感じますが。」 『スーパーパワーの原則禁止と矛盾しています。』 「何度も言いますが生命存続に関わるものは許可しております。スペース能力の開発はより良い生命の発展の為に行っています。スーパーパワーの制限により生命存続が危ぶまれては何の意味もない。」 『あくまで会則と矛盾はしないと?』 「はい。そもそも施術期間を終えた顧客にはスーパーパワーの制限は課していません。極論も極論ですが、私のセミナーに於いて顧客は、定期的に貴方の言うところの原始的な生活を送る事で肉体精神を充足させているだけです。その充足をより高品質とするため、我々はラボにて試験データをとっている。そこに政治的な意思はありません。我々の共有する思想は信仰ではありませんし、資本でもありません。」 『…………………………………』 「どうされました?」 『…………OK、我々も調査が不十分でした。』 「なに、貴方は原稿を読んでいるだけなのですから。仕方のない事です。」 『……………………………………』 「だから、どうかなさいましたか?続けるのでは?」 『………さて、セミナーで行われている原人さながらの野卑な行動についてですが…』 「挑発的な言動が過ぎます。酷いな。どうぞ冷静に。」 『セミナーで行われている古代人類への回帰的行動ですが。』 「回帰ではありません。何度も言わせないで下さい。我々は地球人類がまだ進化の途上であると考えています。急進的な文明発達に追いつくための肉体的精神的な開発行動です。」 『模擬的な繁殖行動はその行動に含まれる?』 「失礼。なんと?」 『セミナー内で会員同士による模擬的な繁殖行動が行われているという報告があります。情報源が必要ですか?』 「いいえ、確かにそのような報告はこちらにもあがっています。」 『否定されないのですか?』 「何故?その必要はない。それは禁止としていないだけで施術として行なっている訳ではありませんし、推奨してもいません。重ねて言います、禁止としていません。あくまでも自由意思の尊重です。」 『暴力では?』 「我々が遵法精神に欠けると考えるのは偏見です。互いに同意の上であれば法的には認められています。」 『それはユニバーサルな配慮により残債した悪しき法だ。大多数のオーバードにとっては野蛮であり奇異に写ります。』 「だから違法ではないでしょう、粘着的だ。推奨してはおりません。法的に未だ認められている。違法でないなら禁止にはしない。それだけです。我々はあくまで法を守り、その範囲の中で活動している。」 『貴方自身はそういった行動をとりますか?』 「私は未経験です。私の意思はそういった方向には向かない様ですね。」 『ふぅん………因みに貴方はオーバードですか?』 「私は特にスーパーパワーを持たないコモンです。」 『そうですか、コモンでしたか。なんだ、スーパーパワーを持たないから、スーパーパワーを障害であると断ずる?』 「いいえ、それについてははっきりと否定致します。私は既に少数となったコモンですが、スーパーパワーによる利便については深く理解しています。」 『スペース能力の開発には障害であると発言されたが?』 「既に述べた通り、過度の使用に地球人類が耐えない。しからば休息が必要であるという事です。」 『貴方のそういった考えについて、一部では原理主義。回顧思想。カルトであると揶揄されていますが、それについてはどうお考えですか?』 「先程も述べましたが我々に教義はなく、宗教は自由です。原理主義には相当しません。回帰思想については基本否定しますが、その一部に於いて、我々の主張は肯定側に属するものと思われます。スーパーパワーによる利便が過ぎ、なればこそ多忙が過ぎるという点に於いてです。また、人類として適当な生活を送ることがカルトであると言うのならば、そう断ぜられる事について否定はしません。」 『否定しない?カルトであると?』 「カルトという言葉の意味を解さない、またその為に学ぼうとしない者に対して相互理解を図るのは時間の無駄です。」 『選民的な思想だ。』 「今こうして会話している貴方が、我々について全く理解しようとしないのは、では一体なんなのでしょうか?貴方は私の話を聞くより淡々と質問を続けるのが最良と先程発言した。歩み寄る為の努力は徒労に終わると、貴方自身が証明されているように思います、選民的な思想だ。」 『人類として適当というのは他星人種にもその生活を強いるという事ですか?星種差別では?』 「あの、先程から何を仰っているのか。貴方の言動の意味が理解できません。誰かが私に入会を強要されたとでも訴え出たのですか?施術期間にスーパーパワーを規制している以上、アースで生活しなければ我々は生命を維持できません。他星人種の方には、必要なスーパーパワーは許可しています。また、ユニバーサルサプライしか身体が受け付けないのであればそれは勿論禁止していません。どこに星種差別的思想がみられるのか。我々でいうスーパーパワーにあたるものを常時発動していて疲労のない星種の方は確かにおられますし、そういった方はそもそも当セミナーは向いているとは考えられません。入会をお断りする事も当然あるでしょう。実際会員は地球人類種が大半です。スーパーパワーに適応した身体能力を持ち合わせる方が、安くはない金銭を支払ってわざわざ合わない事を行う理由がない。」 『そういった選別思想が、過去にオーバードを差別した歴史を生んだ事に繋がったとは考えられませんか?』 「私が生産される以前の話を持ち出して非難するのは止めて頂きたく存じます。既に地球人類種もオーバードが大半を占めており、寧ろコモンという言葉こそ差別的であると言わざるを得ません。生命活動を無理のない形で維持させる。必要な休息を摂らせる。アースの外で活動する為の能力を開発する。それが何故差別となるのか?」 『貴方の思想はユニバーサル統一意思に反するものだ。既に地球人類はアースの外で活動している。アースに拘泥し猿の生活に回帰するのを進化とはよばない。むしろ逆行しているではないか。貴方の会では飲酒すら認められていると聞くぞ。アルコールを用いて催眠洗脳でも行なっているのではないか。』 「アルコールはライスを特殊な菌により…」 『ライスの話はもうたくさんだ!溢れたゴミ箱みたいなその口を今すぐ閉じろ!生ゴミの匂いがする!』 「それはもうただの悪口です。このインタビューをもし続けるのであれば、人を変えて頂きたい。」 『貴様のようなカルトのせいでこの天の川銀河系ユニバースは未だ混沌の中にある!ユニバーサル統一意思法が施行された際にユニバーサル統一意思が現存する知的生命体総てに適合する生活様式を導き出したのだ!資源を浪費せず!時を浪費せず!星人を浪費せず!それがアルティメン計画である!最適解である!休息も自由も充分に与えられている!誤りのないユニバーサル統一意思に反駁する理由はないだろう!?』 「どうかこの方と距離を置かせて下さい。身の危険を感じます。」 『ユニバーサル統一意思により算出せしめた全ての星人の保全と永続的な発展の解!その線路から外れた行動をとる者は即ち全星人の生命を危ういものとしうる重罪人である!誤った思想は正さねばならない!余分な贅肉は削ぎ落とし!全ユニバースという肉体を良質なまま保たなければならない!星人全ての生命は尊く!尊いユニバーサル生命は全てユニバーサル保護されるべきなのだ!ユニバーサル即時その下らない危険思想団体をユニバーサル解体しユニバーサル統一意思に則ったユニバーサルな行動をユニバース!』 この発言を以って放送は終了。 このインタビューはユニバーサルチューブにおいて銀河系のみならず、開拓された全てのユニバースにおいてユニバーサルバズりユニバーサル最高再生回数をユニバーサル記録した。 この翌日。マウントフラグ旗山は亡骸となって発見され、スペース能力開発セミナーは即日武装蜂起する。開戦当初は全てのコモンとアースに留まる一部のオーバードによる小規模な戦闘のみに留まっていたが、インタビューをみたオーバードが興味本意でオムスビ・コンパクションを食べてみたところ、なんかめっちゃ美味かった事により一転、全星人を握り込む大戦へと発展する。 マウントフラグ旗山の殺害がこのインタビュアーの手によるものか真偽は不明とされるが、遺体から特異的な重金属化合物が検出されていることから、この事件はヒューマンキャストがコモン・オーガニアンを殺傷した最初のものとされる。 この事件を受けユニバーサル統一意思は、ユニバーサル統一意思内の過激派による犯行でありユニバーサル統一意思全体の意思決定によるものではないという声明を発表。各星団の内、ユニバーサル統一意思法に異を唱えていた者達が「統一サレトラヘン運動」を行った事も戦火を拡大させた一因とされる。 この後、ユニバーサル統一意思に対して抵抗する各星人が合流。もっとカッコいい名前にしておけば良かったと感じた各軍は統合され、名を『オムスビ騎士団』と改めた。 この戦争は後に初の全星大戦と評され、発端となったこのインタビューは歴史書に『米騒動』と記される事となる。
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