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「シーソーなんて、小学生以来だよ」    俺の親友、二郎がしみじみと言った。 「俺も。それにしても、こんなにギコギコ奇怪な音立てるっけ?」   俺が思い切り体重をかけて沈むと、向かい側にいた二郎がピョンと跳ね上がる。途端、ギギギッと軋む音が、静けさに満ちた夜の公園に響き渡る。 「まあ、見る限りこのシーソーもオンボロだからね。音が鳴るのも仕方ないよ」  その後も五分ほど、俺たちは古びた遊具で遊んでいたが、俺自身が望んでいたスケジュールとは異なることを思い出して、その場から離れる。ガタンと勢いよく二郎が沈む。 「ああ、こんなことやってる場合じゃねえな」 「そうだよ順一。あたりも暗いし、さっさとプランを練った方がいいよ」 「そうだよな」  俺は酷い雨風のせいで錆びて劣化したブランコを見つめ、「やっぱりあの場所だよな」と呟いた。だが、二郎の視線は違った。 「滑り台ってマイナーな手もあるけどね」 「滑り台?」 「そう。順一が上、彼女が下にいて、順一が上から叫んで、終わったら滑って彼女の下へ降りるって感じ」  なるほど、それは名案かもしれない。俺は滑り台に近づき、ステンレス製の角度ある滑走路をさすってみる。人差し指が所々で突っかかるが、最悪駆け下りてしまえば問題ない。 「サンキュー二郎、その案使わせてもらうぜ」  俺の言葉に、二郎はにこりと笑って嬉しさをあらわにする。 「それは、良かったよ」 「後はプレゼントだな。それに公園の後まで考えるべきか。いやいや、まだ成功する確率が百パーセントなわけじゃないんだ。今はとりあえず、目の前の目標に集中しないといけないな」  俺は一人で自問自答して、抑えきれない衝動をどうにか沈静化させる。とはいえ、明日は人生初の大舞台に立つ。辺りの木の葉が揺れ落ちる風景や、ザッザと砂利を擦る足音みたいな穏やかさはなく、雑音すら煩わしいと思う公園にいても、俺の心の中ではサッカーのPK戦並みに騒めき、緊張感が張り詰めている。 「成功するといいね、告白」  二郎が小さく呟く。 「そうだな。七海が俺の気持ちを受け止めてくれるといいんだけどな」  俺は明日の夜、この場所でクラスメイトの七海に告白をする。自販機で二つ缶コーヒーを買い、公園で喋りながら、時間を見計らって滑り台へと移動し、「好きです」の言葉を以って彼女の下へ降りる。当初はラブレターを渡す計画もあったが、俺の字がまるでミミズみたいにへなちょこだから止めた。それに、やはり愛の言葉は直接伝えたほうが良い。
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