直感

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直感

「『トランペットがいいなぁ』って、それはどういう意味ですの?」  武者小路さんが不思議そうな顔をしている。  武者小路さんって、ひとことで言うとスっごく『お嬢様』って感じなんだ。彼女の自宅っていったら、そりゃあもう、とてつもなく大きくて、なんか旧家のお嬢様って感じでさ。でも、ちょっとお嬢様過ぎて浮世離れしたトコもあるんだよね。  武者小路さんは中学1年の頃からずっとトランペット一筋らしい。だからアタシはちょっと(うらや)ましくなって、こんな話をしたのだ。 「だって、トランペットって楽譜見なくても、『直感』で吹けるんでしょ?」 「え? あなた、なにを言ってるのかしら?」 「だって、トランペットって、『直感』楽器って言うじゃない」 「ハァー…… このおバカはまた変なことを言い出して……」 「え、違うの?」 「あなたは(じか)に感じると書いて『直感』だと思っているのでしょうね」 「え、違うの?」 「違います。真っ直ぐな管と書いて『直管』です。トランペットやトロンボーンは、他の楽器のように管が曲がっておらず真っ直ぐな管でできている、そう言う意味で『直管』楽器と言うのです」 「え、そうなの? アタシはてっきり、スっごい感性の持ち主が『直感』で吹く楽器だとばかり思ってたよ」 「まあ、もちろん感性は大切ですよ。あなたはよく、清風(きよかぜ)先輩から『感性が豊かだ』と褒められてますからね」  あっ、武者小路さんがちょっとムッとした。
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