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だって言うじゃないか
「それで? 二人はなにを話してたんだい?」
清風先輩が興味深そうな様子で、アタシ達に尋ねてきた。
「その、ナツさんが感性豊かで羨ましいという話を少々……」
え? なに言ってんの? アンタさっき、アタシがボーっとしてるとか、なにも考えてないとか、黒いこと言ってたくせに。
コイツ…… こんなささやかな会話の中でさえ、清風先輩に取り入ろうとしてやがる……
先輩がアタシの感性を評価してるからって……
恐るべし武者小路篤子。
感性という言葉にビビッときたのか、今度は清風先輩が少し興奮気味に話し出した。
「ああ、まったくその通りだね! 夏子は金管楽器が『ズドーン』って聴こえて、『バーン』って感じになったと言ってたね。それに、ボクのトランペットは『ドキューン』って聴こえたとか。こんな感性豊かな表現、ボクは初めて聞いたよ」
そう、この先輩は勘違いしているのだ。アタシは感性が豊かなのではなく、単に語彙力が足りないだけなのだ。
「嗚呼、そんな感性豊かな夏子には、是非トランペットを吹いて欲しいんだけどね」
あーあ。先輩がそんなことを言うから、また武者小路さんが不機嫌な顔になったじゃないの。
仕方ない。ここは気配りが出来て…… えっと、あとなんだっけ? まあ、いいや。
「もう、先輩ってば、買いかぶりですよ。アタシにトランペットなんて向いてませんよ」
「なにを言うんだい、夏子! トランペットはとても感性が求められる楽器なんだ!」
「はあ…… でも、トランペットに限らず、どんな楽器でも感性は必要じゃないんですか?」
「ふふっ、夏子はわかってないね。だって言うじゃないか!」
なんと言うんですか?
「トランペットは『直感』楽器だって!」
「え?」
「流石、清風先輩ですわ! 私もまったくその通りだと思いますの!」
…………ウチの高校の吹奏楽部には、アタシを含めておバカしかいないのだろうか?
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