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第1章 ミニのフレアワンピースの裾が靡く一瞬の煌めきのように
ラブホテルの403号室のチャイムを押すとすぐにドアが半分ほど開き、瞬時に部屋の光を背景にした中年男性が、舐めるような目つきでWATASHIを凝視した。男の視線がつま先のスリングバックパンプスからWATASHIの顔に戻ったタイミングでにっこり微笑むと、ようやく納得したように中年男性は軽く頷いた。
黒のレザーのソファに並んで腰かけ、笑顔のまま90分25000円になりますと告げると、恰幅のいい中年男性は、やや派手な柄のネクタイを緩めタバコに火をつけながら、よくある交渉を当然のごとく持ちかけてきた。
──もう1万円だすから本番いいかな?
WATASHIは、ギンガムチェックミニスカートのフリルのついた裾をなおしながら、ある程度金銭に余裕のある男だと判断し、いつものセリフでさらりと返した。
──お客様、当店のようなデリバリーヘルスでは、本番行為は禁止されております。
しかしながら、内緒でとかたくお約束をしていただけるのなら、前金3万円の追加料金でお受けいたします。
ライトグリーンでリーフ柄のカーテンが彩光によって明るくなり、愛犬のチワワがベットに昇ってきた。共働きの両親は、すでに仕事に出かけたようだ。
洗面台の鏡にうつるすっぴんのWATASHIは、冴えない顔をしていた。とくに低くひらべったい鼻が気にくわない。先日はじめて仲の良い友人とホストクラブに行ったときも、友人の方がチヤホヤされていて、WATASHIはうつむき加減のまま、手で隠しながらなるべく鼻を見られないようにしていた。大学の級友のなかには整形をしている子も数人いるし、今の時代整形は当たり前になっている。
地元の一貫校だったため、内部進学でそのままその地方都市の私立大学に入学できた。偏差値の低いお金持ちが通うお嬢様大学と噂されていたが、実際、噂どおりほとんどが裕福な家庭の子どもだった。大企業の役員や個人経営者、医師等々のお嬢様たち……
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