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ですが、その人物、予想外にもあの老紳士じゃあなかったんですね。
今日はOLさんらしき、カーキのトレンチコートを着た若い女性なんです。でも、犬はよく懐いている様子でその女性に擦り寄っていきますし、彼女の方も彼女の方でその場にしゃがみ込むと、犬を親しげにあやしています。
そして、女性が立ち上がって歩き出すと、また犬もその後をカルガモの親子のようについていくんですよ。
あれ、あのお爺さんを迎えに来たんじゃないのかなあ? でも、あの懐いてる様子からすると、もしかして孫娘か誰か、あのお爺さんの家族かもしれないなあ……。
女性とその犬のやりとりを見ていて、K君、そんな解釈をしたんですね。
ところがですよ。また数日経ったある日、K君はまた帰りに駅前で待っている黒犬を見かけたんですが、その日、犬の駆け寄って行った相手は老紳士でも若い女性でもないんですよね。
今度は紺のスイーツを着た典型的なサラリーマン風の中年男性なんですね。
それでも、犬は人懐っこく男性の方へ向かってゆくと、男性の方も笑顔を浮かべて犬を撫でてやってる。
あれえ? また別の人だけど、もしかしてあの人も家族なのかな? 年齢からして、あのお爺さんの息子さんで、あのOLさんはこの人の娘さんかなあ?
この前と同様に、K君はそんな風に家族なんじゃないかと思ったんですけどね。それが、その後も何回か駅前で誰かを待っている黒犬を見かけたんですが……その度に出迎える相手が違うんですよ。
ある時は女子高生だったり、またある時は買い物帰りらしいおばさんだったり、とにかく毎回違う人なんだ。老紳士だとかOLさんだとか、前に見かけた人をもう一度出迎えるってことがないんですよ。
まあ、全員、家族だって可能性もありますよ。でも、やっぱり何かおかしいですよね? 家族だとしても、同じ人の場合が一度もないなんてことあるんでしょうか?
それでも、偶然が重なっただけで、きっとあれは全員家族なんだろうな……と、K君は常識的な考え方で自分を納得させていたんですけどね、その内、ついにその謎の解ける日がやって来たんです。
その日は、朝からちょっと不穏なことがありました……。
いつも使っていた鞄のベルトがなぜかブツリ…と切れたんですね。まあ、だいぶ長いこと使ってましたからね。経年劣化だったのかもしれませんが、とにかくこれじゃあ仕事に行けないんで、仕方なく、遊びに行く時使っているリュックサックに荷物を詰めて、とりあえずそれで出勤したそうです。
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