送り犬

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 それからしばらくの間、時折、後を振り返ると犬はまだついて来ていたんですが、駅前の繁華街も過ぎて、住宅街に入るくらいにまで歩いてきたところで、さすがにもういなくなっているだろうなあ……とK君が振り返ってみると、意外にもまだ犬はついて来ているんです。  ええ? まだついて来てるよ……こんなに遠くまで来たら迷子になっちゃうんじゃないか?  心配になったK君はあえて厳しい態度をとると、しっ! しっ! 早く家に帰りな! と犬を追い払うような仕草を見せて、そこからは速足で歩き出したんですね。  まあ、駅からK君の家までは歩いてだいたい15分弱くらいだったんですが、家のある所は山の(きわ)で、広い田畑の中に民家が(まば)らにあるような、ちょっと淋しい場所なんですね。駅前周辺は新興の住宅街なんですが、彼の家の辺りはずっと昔からある集落なんです。  いつしかすっかり日も沈み、夜の闇に辺りが包み込まれたその頃。  真新しい家々の建ち並ぶ住宅街も抜け、やがて、昔ながらの農家風民家がぽつりぽつりと見えるような景色になってきたところで、いや今度こそ、さすがにもういないだろうな……と、もう一度、K君後を振り返ってみたんですが、なんと、まだ犬はついてきているんですよ。  ええ? いったいどこまでついてくる気だよ!?  それを見てK君、驚いたんですがね。じつは驚くべきことはそれだけじゃなかったんですよ……そのついて来ている犬の様子がね、どうも変なんだ。  駅前で見かけた時には普通の芝犬くらいの大きさだったのに、今はその一まわりも二まわりも…いや、下手をするれば三まわりくらい大きくなっているような気がするんです。  辺りは暗くなりましたし、目の錯覚かなあ? と思って、もう一度よく見てみたんですが、やっぱり数倍の大きさになってるんですね。  いや、大きさだけじゃない。その眼は闇の中で爛々と赤く輝き、グルルル…と威嚇するというか、獲物に対して威圧するような、そんな不気味な唸り声まであげているんですよ。  やばい。これは襲われる……。  K君、本能的にそうわかったそうです。
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