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「うわあああっ…!」
次の瞬間、彼は咄嗟に走り出したんですね。
すると、背後からはワン! ワン! ワン! ワン…! とけたたましく吠える犬の鳴き声とともに、ものすごく恐ろしいものの気配が迫ってくるんです。
ただの犬に追いかけられてるなんてもんじゃない。巨大な猛獣とでも呼べるような存在が、すぐ後にいるのが見なくても背中でわかるんだ。
実際に目で見て確かめたいんだけど、振り返ってる余裕なんてものもないんですよ。そんなことしてる間に追いつかれて食い殺されるかもしれない……。
「…ハァ……ハァ……た、助けてくれぇ…!」
K君、人気もない暗い田舎道を、とにかく必死に走ったそうです。
「…ハァ……ハァ……ハァ……ハァ…」
もう、なりふり構わず全力疾走しているんですがね。一向に背後の犬を引き離すことができないんですよ……いや、むしろ距離が徐々に縮まってきているような気さえするんだ。
このままじゃ、先にK君の方が力尽きて追いつかれるのは明らかなんです。
も、もうダメだ……。
諦めかけたその時、彼の目に神社の石鳥居が飛び込んできました。
その道は緩やかにカーブした山際の一本道なんですが、その道端にある神社の鳥居で、鳥居を潜るとすぐに急な石段が山の上の社殿へと伸びているんですね。
まあ、産土様とか氏神様っていわれるような、昔からその土地にあって、K君も小さい頃からお参りに行っている馴染み深い神社です。
どうせこのままじゃ遅かれ早かれ追いつかれる……ここは一か八か、その石段の上へ逃げてみよう……。
K君、不意に90度くるりと体を回すと、鳥居を潜って石段を一気に駆け登りました。もうね、追いかけて来る犬に対抗してるわけじゃないんですが、獣のように四つん這いになって這い登るような勢いですよ。
「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ…」
無我夢中で社殿の建つ上の広場まで辿り着き、肩で息をしながらようやく振り返ったK君だったんですが、気づくともう黒犬はいなくなっていたんですね。
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