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……はあぁ…助かったあ……どうしてか知らないけど、もしかして、神様が守ってくれたのかなあ?
理由はわかりませんが、どうにか命拾いをしたK君は、なんとなくそんな風に感じると、急に脱力した体を社殿の方へ向けて、深々と頭を下げてお参りしたそうです。
それからも、しばらくその場で様子を覗っていたんですが、どうやらもう大丈夫そうだったんで、K君は心の中でどうか神様、お守りください…とお願いしながら家路を急ぎ、無事、家へと辿り着くことができました。
その後は駅の改札を出る時もあの黒犬がいないかどうか確認するようにしていたんですが、不思議ともう見かけるようなこともなく、二度とあんな恐ろしい体験をすることもなかったようです。
でも、K君、ちょっと気になることがあったんでいろいろ調べてみたんですね。そうしたら、ははあ…やっぱりそういうことだったのかあ……と、とりあえず自分の中で納得できるような事実を突き止めることができたんです。
まずはあの黒犬の正体なんですがね、なんとなくそんな話を聞いたことあるような気がしていたので、知り合いの古老に改めて尋ねてみると、昔、この地方には〝送り犬〟という妖怪がいたそうなんですよ。
この〝送り犬〟、夜中に山道を歩いていると後からついて来るという妖怪で、目的地へ着くまでの間に転んだりすると、襲いかかってきて食い殺されてしまうと云われています。〝送り狼〟とも呼ばれ、よく、女性を送ってくフリして下心のある男性のことをそう呼びますが、それも元はこの妖怪からきてるんですね。
もし、あの黒犬がその〝送り犬〟だったとしたら……K君が体験したのと同じように、あの犬は老紳士やOLさんをはじめ、これまでに見た人達も出迎えるために駅前で待っていたんじゃなく、後を追って食い殺すために待っていたのかもしれないんですよ。
思い返ってみると、そういえば駅前にはあんなに人がたくさんいるっていうのに、あの黒犬に気づいていたのって、犬がついて行ったあの人達だけだったような気がするんですね。
あの犬は夕暮れ時の駅前で、つけ入る隙のありそうな犬好きの人間に目星をつけ、その獲物となる者にだけ自分の姿を見せていたんだとしたら……。
まあ、地方によっては家に着くまで見守ってくれるとも云われるんですが、ある研究者によると、この〝送り犬〟の行動はニホンオオカミの生態によく似ているため、それを元にして生まれた伝承だという説もあるんですね。
現在、ニホンオオカミは絶滅したとされていますし、狼と犬じゃ違うだろうと思った方もいるかもしれませんがね、かつては〝山犬〟とも呼ばれていれ、野犬や狼の区別は曖昧というか、ほぼ同一視されていたんです。
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