送り犬

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 そこで、あのK君が逃げ込んだ地元の神社なんですが……あそこに祀られている神様って〝三峰さま〟だったんですね。  三峰さまっていうのは、この地方ではよく信仰されている神様なんですけどね、その神さまの眷属――簡単にいえばお使い(・・・)ですね、そのお使いっていうのが〝ニホンオオカミ〟なんですよ。そのお札にも黒い狼の姿が刷られていたりするんですね。  つまり、狼や犬を統べる神さまである三峰さまの神社に逃げ込んだから、それであの黒犬は追ってくるのをやめたんじゃないか? というわけですよ。  それにこれはK君もすっかり忘れていたんですが、あの日、ベルトが切れて持って行かなかった彼の鞄、そこに付けていたお守りも、じつはあの三峰さまを祀った地元の神社のものだったんですよ。  だから、それまでは近寄って来ることもなかったのに、三峰さまのお守りを持っていなかったその日に限って、あの犬はK君を獲物と定めたのかもしれません……。  幸運にもK君は助かりましたが、彼の見かけたあの老紳士やOLさん達、黒犬のついていった他の人はどうなっちゃったんでしょうかね?  この情報網の発達した現代社会でも、ニュースにならない行方不明や失踪事件なんてザラですからね、その中に紛れているなんてこともありえなくはないですよ。  あの黒犬の正体がいったいなんだったのか?  その本当のところは正直わかりません……でも、今もあの犬はあの夕方の駅前で、ああして誰かを待っているんじゃないか? と、K君、あれ以来ずっと、改札を出る時は思わず辺りを確認してしまうんだそうです。                       (送り犬 了)
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