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1.はじまり
生まれつき、母斑は出来てしまうものらしい。
それは成長するにつれて薄れていくものだとも、はたまた前世との因果関係があるとも言われている。
出来てしまうのは仕方ない。メラニン色素が原因でなるものだから。だが、それが大きく、しかも目立つところに出来てしまうのは話は別だ。
その茶色いシミのようなアザのせいで気味悪がられ、さらには、「汚いから、洗えば落ちる」という理由で、水溜まりに顔を無理やり突っ込まれたこともあった。
もがけばもがくほど、口に水が否が応でも入り込んでしまい、段々と息が出来なくなっていき、一時期は死ぬかと思ったぐらいだった。
いや、死んでも良かったかもしれない。
いるだけで心の無い言葉を投げられ、蹴られ、時には棒で突っつかれ。
それに対して、誰かが助けてくれるわけでも無かった。
哀れに、嫌そうに、一緒に嗤う者もいた。
それらを見て、誰もが自分が可愛くて仕方ないんだ、だから助ける人なんていないんだ、助けたとしても、自分にも害が及ぶから、救いの手を差し伸べないんだとある時、妙に冷静に納得した。
ある時には顔にも青あざが残るぐらいのことをされたものだから、両親がさすがに気づき、担任に言ったりもしたが、「知りません」の一点張りで取り合ってくれなかった。
その時の担任の言葉や表情がまるでロボットのそれで、そして、大人という者は信用してはならないということも学んだ。
何が知らないだ。遠くで見ていたの、知っているんだぞ。
言葉にしても仕方ないから、両親と口論している担任を睨みつけながら、心の中で言った。
そういうこともあり、こんな担任の元で息子を任せることが出来ないと、カンカンに怒った両親は、転校をさせてくれたりもしたが、やはりその先でも同じような目に遭い、何回か転校を繰り返すうちに学校という閉鎖的な空間に馴染めないと思い始め、不登校となった。
両親も理由は分かっていたので、無理に行かせようとはしなかった。
そんな日々を送っていたある年の時、母斑が前よりも広がっていることに気づいた。
右側の顎から首辺りだったのが、首の前辺りをほぼ覆うぐらいに。
ただの母斑ではなかったのか。
母斑ではないのなら、自分ですら見るのも嫌になるこのアザは一体何なのか。
それ以来、鏡をまともに見る気にはならなくなった。
両親もこの薄気味悪いアザを見たせいか、自分が意識せずとも密かに眉を顰めていたことに気づき、親でさえそんな反応をすることに酷く傷つき──前々から気づいていたことだが、気づかないふりをし続けていた──、部屋に引きこもる生活を送ることとなった。
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