君へ

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 なぜ1人で子供を産めない体になっているのか。  それは異なる個体や種の間で遺伝子を交換し、生き残るために有益な情報を交換、継承、すなわち進化して子孫を繁栄させるためである。  太古の昔、生物がやっとでき始めた頃はそのほとんどが自分一人で自らと全く同じ構造を持ったいわばコピーのような子を作る、いわゆる無性生殖を行うもの達であった。しかし、環境の変化やウイルスやバクテリアといった外敵の影響によって自分と同じ性質を持つ子ではやはり同じように犯されてしまい、その種は淘汰されていくというのが常であった。  そこで生き残ったのが、異なる個体と情報を交換し次世代に継承していく、私達今日の動物や植物のほとんどと同じく有性生殖を行う者達である。つまり種の存続という安定をもたらすためには変化し続けなくてはならない、この一聞して矛盾すら感じることこそが世の原理なのだ。  その原理においては、種の存続において無意味にも思える愛以外の感情や生命活動以外の行動すらも不必要な変化だとは言い切れまい。その全ては私達が生き、互いを愛し、種を存続させてゆく上で必要な変化なのである。  自らへ、他者へ、時には命や形すら持たぬものへさえ向けられる、この悲しみは、怒りは、喜びは全て愛ゆえに生まれる感情なのである。  その感情に制限などない。制限があるということは愛に限りがあるということ、すなわち進化に制限を生んでいることと同義である。  それゆえに滅びゆく定めだとしても、それは彼らが選んだ、または偶然そうならざるを得なかった、自らを廃し、他の種族を栄えさせるという全体の生命活動の安定において必要な変化なのである。
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