戸田中の場合

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戸田中の場合

「あの、そういう目で見ないでもらえます」 会社の先輩の百瀬 駿矢(しゅんや)は、 女好きだ。 気もきくし、明るくて気さくだから、 女子社員にも人気だし、 合コンでも独り勝ちの時も少なくない。 それでも周りに気を遣えるその様は、 男の俺でも尊敬すら覚える。 俺の彼女にしても例外ではない。 帰りに待ち合わせしたときは、 結構な頻度で百瀬さんと帰りが被る。 「俺今日こっちなんで」 そう言って駅の裏手に行こうとすると 「え?彼女と待ち合わせ?」 さすがに鋭い。 「いえ、ちょっと本屋寄るんで」 どうしても彼女に合わせたくない。 「じゃあ、俺も行こっかなぁ」 いや空気読めよ! てか絶対、彼女との待ち合わせばれてんな。 あえて空気読んでないとか、まじめんどい。 「いや彼女と行くんで」 はっきり告げる 「あ、そうか、久々に会いたいなぁ」 何言ってんだよ、俺の彼女だし。 「桃子(とうこ)ちゃんだっけ?いい子だよね」 「ありがとうございます。じゃここで」 強引に引きはがそうとする。 「えぇ 戸田中冷たくない?」 にっこり笑う百瀬さんにイラっとする。 で、タイミング悪く 「(こう)」 と俺を呼ぶ彼女が登場。 「とうこ、」 「ごめん、待ってたんだけど遅いから…」 そう言ってから、隣の百瀬さんに視線をやる。 ペコっと軽く頭を下げる。 「久しぶり、桃子(とうこ)ちゃん」 いや軽々しく呼ぶな。 「こんにちは」 とうこも愛想笑いで返す。 「じゃ、百瀬さん失礼します」 そう言って先輩をやっと引き離す。 桃子も頭を下げる。 「ごめんね桃子、先輩ついてきちゃって」 「大丈夫だよ」 にっこり笑う彼女は、ほんとにかわいい。 もし百瀬さんが本気出したら、 桃子の笑顔はずっと俺のものであってくれるだろうか? ちょっと不安になる。 「おはよう戸田中」 昼休憩に、百瀬さんに絡まれる 「お疲れっす」 パックジュースのストローから口を離す。 百瀬さんも同じのを飲んでいる。 少しの沈黙。 「桃子ちゃんていいよな」 「は?」 「かわいいしさ、スタイルもいい」 いや、桃子いつもだぶっとした服着てるし、 スタイルとかわからんでしょ? 「いいにおいしそうだし」 「百瀬さん気持ち悪いっすよ」 心の声が漏れてしまう。 「そう?抱きたいなって…」 言葉を遮るように、百瀬さんをにらむ。 「あの、俺の彼女なんで」 「そうだね」 「そういう目で見ないでもらえます」 ハハっと乾いた笑いを残して、 百瀬さんは休憩室を後にした。
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