松田の場合

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松田の場合

「あのこさぁ、 いつもお前の入ってる時間に来るよな」 わかってる。 俺もいつも思ってた。 俺のバイト先のスーパーは、 客も多いけど、 彼女はいつも俺のいる時間に、 俺のレジに買い物に来る。 何なら商品陳列してるときも、 俺のそばをうろうろしてる気がする。 ストーカーかよ。 「もてる男はつらいなぁ」 一緒のバイトに入ってるこいつには、 いつも冷やかされる。 「別に、 好きでもないやつにまとわりつかれてもな」 「いってみたいなぁ、そんなセリフ。 お前、りんちゃんともいい感じだしな」 「りんちゃんはホラ、 誰にでもあんな感じだろ?」 そう言ってみるものの、 俺も一緒にバイトしてるりんちゃんは、 俺に気があるんじゃないかって思ってる。 「もうカレカノみたいだしなお前ら」 「やめろよ」悪い気はしない。 「ほら噂すれば彼女だ」 またあのストーカー女か。 ちょっとバックはいってようかな。 「いらっしゃいませ」 今日は誰かと一緒だ。 友達かな? ほんとに買い物だけなんだろうか? っていうぐらい店内をぐるぐるしてる。 俺のことさがしてたり?気もち悪。 そうこうしてるうちに、 レジが混んできた。 でもレジにはあの女が並んでる。 行きたくないな。 『レジ応援お願いします』 アナウンスが入ったけど行きたくない。 あの女のレジが回ってきた。 もうあいつのレジをしなくていいし、 ヘルプはいろうかな、と思った時、 『レジ応援お願いします!』 社員さんのちょっと切れ気味の声が響く。 慌ててレジに行くと、 りんちゃんも来る。 その刹那、あの女と目が合う。 !! なんて冷たい視線。 なんで軽蔑されてんの? もしかしてやきもち? りんちゃんと一緒にレジに来たから? そう思いながらレジを打つ。 その日からしばらく、 彼女は来なかった。 「最近彼女来ないね」 「まぁ、おれは無理ってわかったんじゃね?」 りんちゃんみたいなかわいい子は、 この店にいっぱいいるし。 「お前すごい上からだな」 「まぁそれは冗談だけど、 仕事に集中できるから安心してんだよ」 そんなある日、彼女が来たらしい。 らしいというのは俺は会ってないから。 りんちゃんが言った。 「松田君のこといつも見てる女の人来てたよ。 むっちゃすぐ帰ったけど」 なんで?そう思ってしまった自分に驚いた。 いや別に構わない。 普通の客として来てくれる分には、 いっそ構わないのに…。 その日からなぜか、彼女のことが気になって、 仕方なくなってる自分に気づく。 「松田のストーカー、 松田がバイトじゃないときに来てるよ」 そう聞かされて、少なからずショックを受ける。 俺のこと好きなんじゃないの? と思ったのはうぬぼれか? 「なんか男と一緒だったよ」 「そっか、よかった」 ほっとしたという顔を作って、 俺は仕事に戻った。 なんだか歯がゆい後悔のような気持ちで…。
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