橋田の場合

1/2

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

橋田の場合

「純也、もう帰るの?」 まゆ香とは2年くらい前に会った。 かわいいし、割と男受けするタイプの女だ。 まゆ香のアパートで、 こうしてたまにあったり、 飲み会に一緒に行ったりする。 一緒にいるのも苦じゃないし、 エッチも普通にしている。 しつこくないしいい彼女だ。 「うん、仕事あるしね」 営業の途中で時間が空いたので、 まゆ香のアパートに寄っただけだ。 「またね」 そう言ってキスをして、アパートを後にする。 昼飯を食いそびれていたので、 近くのコンビニでパンとジュースを買う。 そこで、見覚えがある人を見かけた。 えぇっと…誰だったろう? 考えながら店内を歩く。 彼女が近くに来て、横顔を見て思い出す。 あっ!営業先の事務所にいる人だ。 かわいくないし陽キャでもないし、 タイプでもないからあんまり記憶になかった。 レジを済ませて店を出ようとしたところで、 彼女も俺に気づいたようで、 じっと見られているのがわかった。 一瞬二人の視線が重なった気がした。 何だろう、その切なそうな目が脳裏に焼き付く。 それからしばらく、 彼女のことが、 頭から離れなくなってるのに気が付く。 何考えてるんだ俺…。 「ねぇ、純也ぁ、何考えてるの?」 まゆ香との最中に…なえてしまう。 ありえない。 「疲れてるの?悩み事?」 「ごめん」 「いいよ。でももう少しこうしてて」 まゆ香はもうしぶんのない女だ。 胸はちいさいけど、スタイルもいいし、 抱き心地もいい。 こんな状況でも俺を責めたりしない。 垂れ下がった自身に、 俺が一番戸惑っている。 「こんにちは」 ある日、彼女の会社に営業に向かう。 「いらっしゃいませ。 あの今誰もいなくて、 私だけなんですけど…」 偶然にも、 彼女しかいない時間に訪問してしまう。 アポとっといたらよかった。 でも、彼女としっかり目が合ってそらせない。 何も話さないまま、濃密な時間が流れる。 どうしよう心臓の音がうるさい。 「あの、伝言があれば賜りますが」 彼女の言葉に我に返って、 名刺の裏に要件を端的にかいて、 「これ、渡して連絡もらえるよう、 ご伝言願えますか?」 そういって彼女に渡す。 「はい」 そう言って、 名刺を受け取ろうとした彼女と、 指先が触れ合う。 彼女の顔がみるみる赤くなっていく。 え?もしかして俺のこと意識してるの? それとも単に男に免疫ないだけ? 「あ、こないだコンビニにいましたよね?」 何となく口にしてみる。 「は、はい」 そういいながら、 またあの視線を俺に向けてくる。 どうしよう。 急速に俺の気持ちが引っ張られて、 彼女に吸い寄せられていく。 「あの、名刺お預かりします」 彼女はそう言って俺から視線をそらした。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加