住良木の場合

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住良木の場合

俺の好きな(ひと)恋愛体質だ。 そして、勘違いしそうなほど俺との距離感は近い。 それは気持ち的にも物理的にも…。 でも、平気で俺じゃない『好きな人』の話をしてきたりするあたり、 彼女にとって俺は『友達』…。 それも女友達と同じような感覚で、 つまりは、異性として意識されていない。 だから、ヘタレな俺は、 この距離を変えることができない。 「居心地のいい住良木君」 でいいと思ってしまう。 現にこのポジションは、 どんな男子よりも彼女の近くにいられる。 「何見てんの?」 放課後の教室で、 窓辺にもたれかかる彼女に声をかける。 少し寒くなってきたから、 窓を閉めようといいながら。 「あ、うん」 知っている。 今、彼女が好きなのは陸上部の同級生の『中山』。 ハードルを飛ぶ姿がかっこいいんだとか。 確かに障害物を超えてもあのスピード。 俺でも「すごい」と思ってしまう。 「中山君今日も記録伸ばしたみたい」 アイドルでも見るかのように、 恍惚とした表情から無意識に目をそらす 「先月は吹奏楽の間崎に惚れてたのに…」 「そうなんだよねぇ、でも間崎くん3年の先輩と付き合い始めちゃって…」 「切り替え早いっていうか、懲りないね」 そう言ってさりげなく彼女の頭をポンポンする こういうのって女は好きなんじゃねぇーの? 「わかってるよぉ。私の好きになる人って、彼女いたり、いなくってもいつの間にか違う子と付き合い始めたり…はぁ私って男見る目ないのかなぁ」 「どうかなぁ」曖昧に笑って答える 「結構いちづなんだけどなぁ」 「いや 毎月違うやつ好きとかって聞いてるからそんなふうに思えねぇな」 といたずらっぽく返すと 「いやいや マジだから 尽くす女だよ」 とマジになって俺をたたく わかってる なら俺と付き合えよ そうしたら俺も大事にするのに… いつもの冗談みたいに言ったらいいのに、それは飲み込んでしまう マジでヘタレだなぁ 俺 そんなことを考えてると 彼女が窓を閉める 「ちょっと寒いね あったかいものでもおごってよ」 当たり前のように俺と帰ろうとする彼女の横顔を見る まったく俺を映してないようで、この瞬間は俺だけの… ふいに意識しすぎて、声も出せなくなって、一歩の踏み出せない俺 そんな俺を彼女の瞳がとらえて 「どうしたのっ!」と無邪気に自分の両手で俺のほほを包む その動作にハッとする 「お おま なにしてんだよ!」 いつもならこんな事日常茶飯事なのに、慌ててしまった自分が恥ずかしくなる 「え?なんで?」 俺の顔を見た彼女が、真顔で見つめてくる 顔が熱くなるのがわかる 「ほら 帰るぞ!」もはやうまく気持ちを隠すことすらできなくなってる自分にいら立ちながら、カバンを乱暴に持ち上げて肩にかける 「あ もう 待ってよ」そんな俺にそれでもついてくる彼女を、今は振り返ることができない 彼女は言う 「片思いしてる時間も楽しい」 俺は言う 「またフラれるかもよ」 俺はイジワルだ 性格悪い 「もう そんなこと言わないでよ!」 「応援はしてるよ」 そう言ってまた笑顔を作る この片思いはいつまで続けられるんだろう…
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