菊池の場合

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菊池の場合

片思いをするのは久しぶりだ。 『なんか冷たそう』 『なんか暗そう』 見た目でかなり損をしてる俺は、自分で自分を好きになれないでいる 性格も恋愛観もかなり歪んでしまってる気がする 俺が『好きかも』と思ったその人は いつも笑顔で俺を見てにっこり笑う 知ってるのは名前だけ その名前を口にするたび なぜだか心に何とも言えない気持ちが沸き上がってくる  はじめは何も感じなかったのに 彼女は…彼女の笑顔は しっかり俺を見つめてする挨拶は いつの間にか俺の心の中に ゆっくりと浸透してきて 彼女に会うのを待ち遠しく思ってしまう ある日 街中で彼女に会う それはほんと偶然 近くのコンビニ なぜか彼女はこっそり俺の後を追って 俺の目を盗んで俺を見ている なんでそんなことするの?もしかして 彼女も… うすうす感じてた 彼女が俺を好きなんじゃないかって でも 俺のこと何も知らないよね? なんで 好きになれるの? 見た目?中身を知らないくせに… なんだかわからない気持ちがふつふつと湧き上がってきて いつの間にか いつものゆがんだ俺が顔を出す 店を出る 直前に彼女のほうを振り返ると 彼女の視線とぶつかる 何なんだよ!なんだかわからない苛立ちに感情がぐちゃぐちゃだ 彼女から声をかけてほしかったのか俺? 数日後 彼女の店で当然のように彼女に会う 品物を渡した手に彼女の指が軽く触れる とっさに手を引く俺 「ごめんなさい!」と小さく謝る彼女 顔を上げない彼女の後頭部をじっと見つめる どんな顔してんだろ? 顔を上げて 「ありがとうございます」という彼女は いつもの笑顔でしっかり俺を見つめる 俺も営業スマイルを見せて頭を下げて店を出る 知っている 車を出すまで彼女は俺を見ている さっき彼女と触れ合った手を少し見てから車を出す 次の信号でとまった 俺はまた自分の手の甲を見つめてしまう そしてたまらずあふれる思いで そっとに自分の唇を当てていた…
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