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小澤の場合
年の離れた幼馴染みの初奈は、かわいい。
いや容姿は普通だし、アイドルのようなかわいさとはほど遠い。
天然と言えば天然となんだろうけど、どことなく姉さん的な雰囲気も見せたりする。
でも、奔放で感情豊かで、何より俺になついている。
10才も離れているから妹みたいに見てたはずなのに、何年ぶりかで偶然にあったとき、俺のなかには妹感だけではない“庇護欲”がわいて、そばにおいておきたくなった。
たまたま仕事を探していた彼女に、おれが板長をしている食堂に誘った。経験はあったようで、不器用でおっちょこちょいなところはあるが、接客はなれたものだった。
公私混同しないように職場ではきちっとさせていた。
他の従業員とも分け隔てなくしていた。…のだが、
ある日の従業員との飲み会で、俺は初奈のとなりで、かいがいしく初奈の面倒を見ていた。
もう、プライベートだし、隠すことなく、初奈への愛情を垂れ流していたのは否めない。
「板長、初奈さんにあまくないですか?」
少しよっている様子のバイトの由良が話しかけてきた。
「おっそうか?まぁ職場じゃないからな」
俺は思ったままを言った。
「いや職場じゃなくても、」何故か由良が近づいて来る。
「この前も、帰りにコンビニの前で見かけたんですけど、むちゃくちゃ甘やかしてましたよね?」
あぁ 初奈が縁石につまづいたから、支えてあげたときかな?それともアニメのいちばんくじ何回か引かせてあげたときかな?
いやいや、そうだとしてもそれもプライベートだろ?
「いや 職場では差別してないだろ?」
そう言っても、由良はなんだか不満そうだ。
「いやだって、好きな女と他の人は普通プライベートでは扱い変えるだろ?」
言ってしまったあとハッとする。
顔を真っ赤にして俺を見上げる初奈。
「…え?」言葉に詰まる由良。
その他の人のやっぱりという顔。
「ひろ兄ちゃんっ!」
極端に照れ屋の初奈がプンプンと怒っている。
わかってる。初奈も俺のこと好きなんだって。だから、俺も、遠慮しなかったし。
思わず板長じゃなくて名前呼びしてしまっている初奈を不覚にもかわいいと思ってしまう。
「あぁーあごちそうさま」
「やっぱりかぁ 初奈ちゃん何でよ?板長普通に親オヤジじゃん」
とか言い出す板前たちを軽くにらむ。
年より若く見える初奈を好きなやつもいなくはないと思っていたが、実際若い板前に言われると、焦ってしまう。
「ハイハイ、じゃ宴もたけなわだし、なか締め!」そう言っても、隣のおばちゃんに支払いを託して、まだ赤くなっている、初奈を無理やり立たせて、その場をあとにした。
やいのやいのと賑やかな店内を出ると、繁華街の外れの道は静かだった。
少し冷たい夜風から初奈を守ろうと肩を抱く。
少しかたくなったからだを軽く揺すって、俺の方を向かせる。
「あんな告白してごめんね」
いまだかつてないほど俺を惹き付ける表情に、年甲斐もなくドキドキして、大人の対応ができない自分が情けない。
そんな俺とは対照的に、初奈は足を止めて俺をみつめた。
「何?」
ほんとに情けないセリフしか出てこない。
そんな俺を初奈が突然、ギュと抱き締めた。
どうしていいのか戸惑ってしまう。
すると初奈は、
「私のことすきなら、私がひろ兄ちゃんにこういうことしてもいいんだよね?」と聞いてきた。
…!いいに決まってんじゃん。そう思った瞬間、緊張の糸が切れて、お調子者のおれが顔を出してしまう。
「いいに決まってんじゃん。なんならもっといろいろして、いいよ」
もちろん、本心ではある。照れ隠しだし。
でも、女の子的にどうなの?ムードないよね?そう思ったけど、初奈の方が1枚上手で、
「ま、また今度!今度ね!」と素直に俺の言葉をうけいれるのだった。
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