倉橋の場合

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

倉橋の場合

もう,5年ちょっと待った。 もうがまんできないんだよ。 俺は教師をしている。 そして教え子の親に恋をした。 彼女は子供の相談だけじゃなく。 いつしか自分の悩みも、俺に相談するようになって、 俺はそれを助けたいと思った。 教師を聖職者というなら俺は、教師失格だ。 その気持ちが、「恋」に代わるのに、 それほど時間はかからなかった。 恋なんてかわいいもんじゃない。  愛してしまった。 彼女の離婚が成立するのをまって、 意を決して告白をする。 はじめは戸惑っていた彼女も、 やっと俺を信用して俺を受け入れてくれた。 一緒に暮らし始めたら、 毎日が新鮮で毎日がカラフルに色を着けてきた。 俺の帰る場所に彼女がいる。 毎日一緒に食事をして、同じ家で眠る。 朝起きてもすぐに彼女を感じられる。 この年でこんなことを幸せに感じるなんて、 思わなかった。 寝室の明かりを消す。 彼女の香りをそばに感じて、 思わずその体を手繰り寄せる。 「あっ ちょっと」 初めてじゃあるまいし、 少し抵抗されていらっとする。 でも、じっと抱き締めて彼女の反応を伺う。 「あの…。ちょっと待って」 なにを? 別にかわいい下着とか、 彼女のコンプレックスとかどうでもいい。 ただ『彼女』であれば、 他には何の問題もない。 「恥ずかしいとか言わないでよ」 「え?」 「ちょっと待ってってどのくらい?」 「えっと」 「わかってる。俺だって。 これからいつでも一緒にいられるんだし、  そんなに慌てることはない。 チャンスなんていくらでもある」 そうだ、言葉は悪いけど、 もうおまえは俺のものなんだから。 でも、 「もう5年以上まったんだ」 彼女の髪をそっと撫でる。 「好きに触らせてよ」 自分でも驚くほど切ない声が出る。 それほどの渇望に自分でも笑えてくる。 「おもうぞんぶん抱かせてよ」 そういうと、 彼女の腕が俺の背中にまわされた。 「いいよ、好きにして…」 やわらかく微笑んで、 そう言われて、俺は感情のタガを外して、 初めてみたいに彼女を愛した。 この瞬間は絶対忘れないと思いながら…。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加