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「私の名前は、坂崎里保、33歳。夫の名前は彰、そう言えばわかるかしらね?」
坂崎彰、それはまさに今日私がプロポーズを受けた幼馴染のことだ。
「あなたが今日という日に、彰を選んだからこそ坂崎里保がいるわけ」
と大きなため息をついて顔に痣のある裕福そうな坂崎里保さんは諦めたような笑いを浮かべる。
「ねえ、里保、私は今幸せそうに見えている?」
食い入るように私を見上げた彼女に、頷くことができないでいると。
「私は堀内里保、33歳。夫は修二よ」
もう一人の女性も恨めしそうな顔で私を見上げてきた。
堀内修二、私が付き合っている彼の名前。
「ねえ、見て? 酷いあかぎれでしょう? 脱サラしたのよ、あの人。今は二人で小さな食堂を経営して働いているの。あ、脱サラって言ったら聞こえはいいわよね? 違うわ、会社をクビになったの。理由はわかってるでしょ? 自分のことだもの」
その理由に心当たりがありすぎて、胸が痛む。
堀内里保さんの問うような視線に何も言い返すことができないままでいる私に、二人は首を振る。
「あのね、私たちはあなたを責めにきたわけじゃないの、里保」
「私も、堀内さんも気づいたらここに来ていたの、今日という日に」
「あなたが修二さんを選んだ日に」
「あなたが彰さんを選んだ今日という日に」
混乱しそうになる私に、彼女たちは声を揃えてこう言った。
「お願い、どっちも選ばないで欲しい!!」と。
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