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佳代子は泣いた。 「このままだとあと一年もつかどうか…… 」 目の前に座る医師から、抱っこしている三歳になったばかりの息子の余命宣告を告げられたからだ。 幸助は暖かい腕に抱かれながら、泣き崩れている母親を見上げる。 溢れる涙が幸助の頬に当たる。 少し前にも同じ状況があった事を幸助は思い出す。 大きな笑い声をあげながらいつも遊んでくれていた父親が事故で亡くなった時の事。 『パパ、パパ、パパ…… パパは?』 泣きながら父親を探し続ける幸助に、 『パパはね、お空に行って天使になっちゃったの』 佳代子はいつも読み聞かせていた絵本に擬えて説明した。 『そうなんだ。 天使のパパは笑ってる?』 父親の笑顔を心配するのは、目の前にいる母親が悲しい涙を流しているからだ。 『うん…… うん…… ずっと笑って幸助を見てるよ』 佳代子は涙を拭って精一杯の微笑みを見せる。 『そうなんだ。 きっとママのことも笑って見てるね』 幸助の言葉は佳代子の哀しみを救い、 『うん、うん、うん…… 』 そして先程とは違う涙を流させた。 『ママ泣き虫だね』 悲しんだり切なかったり、喜んだり楽しかったり、色んな感情でいつも泣いている母親の事が幸助は大好きだった。 「もうこれ以上私から家族を奪わないでください」 佳代子は神様に祈るよう医師に訴える。 痩せ細った幼い子を抱きながら項垂れ泣きじゃくる母親を見て、 「 ……一つだけ可能性は残されています」 言うはずではなかった言葉を口にする。 「えっ?」 希望に満ちた顔を上げた佳代子は、三年間お世話になっている医師の言葉の続きを待つ。 「幸助君の掛かっている難病を手術で克服した例があります」 「そ、それでお願い…… 」 即座に反応した母親の言葉を遮り、 「幸助君の年齢、体力、手術の難しさを考えると、成功する確率は五パーセントです。 失敗すればその場で亡くなる可能性もありま」 今まで告げなかった理由を明かす。 余命の有意義を取るのか、奇跡の生還を取るのか、 「五パーセント…… 」 幸助にとっての幸せに考えを巡らす。 「ごぱーせんと? 」 母親の呟いた響きが面白く、幸助も同じように呟き尋ねる。 佳代子は幸助の頭を優しく二度撫で、 「先生、奇跡を起こしてください。 お願いします」 座ったままの状態で「この子に長い人生を」親子で深々とお辞儀した。
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