落×雷

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落×雷

高校入学して約三ヶ月、平凡な日常を送っていた蓮(レン)にとって直接的ではないが、ある大きな事件が起きた。 土曜の朝から病院へと向かっているのは蓮に何か悪いところがあるわけではなく見舞いのため。 広がる綺麗な青空を見ていると、全てが嘘のように思えてくる。 ―――・・・あの事件が起きてからもう一週間が経つのか。 ―――最初は何が起きたのかサッパリ分からなかった。 ―――正直今でもよく分かっていない自分がいる。 ―――・・・心泉(ココミ)さんと涼風(スズカ)の中身が入れ替わったなんて、普通誰が信じると思うんだ? 初めてそれを聞かされた時、まるでドラマや映画のように自分を騙そうとしているのではないかと思った。 だが一般人である自分を騙したところで何の意味もなければ面白くもない。 結局、現実離れした出来事を本当なのだと受け入れた。 ―――俺がその事態を一度信じてしまった以上、もう心泉さんを追及することはできない。 ―――今更やっぱり信じることはできないなんて、口にすることはできないんだ・・・。 ―――これからは涼風が心泉さんだという前提で接しないと。 ―――・・・それにあの告白を無駄にはできないから。 思うところはいくつもある。 だが一つ引っかかることがあった。  ―――・・・正直入れ替わる前の本物の涼風とは良好な関係だったとは言えない。 ―――幼馴染だからこそ互いに気を許し合って、無遠慮な関係になっていた。 ―――それが少し度が過ぎているように思えて、よくある幼馴染のような関係ではなくなってしまった。 涼風とは家も近く幼い頃から仲がよかった。 だが互いに互いをからかうようになってしまい、楽しい日々を送れなくなっている。 一度関係が悪くなれば、それは他人よりも気まずい関係だ。 ―――それはお互い様だ。 ―――涼風だけでなく俺も悪い。 お互い様だからこそ修復しようと思うこともなかった。 無理に仲がいい二人を演じる必要なんてないのだ。 ―――・・・そして心泉さん。 ―――心泉さんは俺が好きになった人だ。 ―――入れ替わる前はアタックしている最中だった。 そこで現在の二人の姿を思い返す。 ―――・・・だけどその二人の中身が入れ替わってしまうなんて、思ってもみなかったな。 ―――苦手な涼風の外見をした、好きな心泉さん。 ―――好きな心泉さんの外見をした、苦手な涼風。 ―――・・・そんな二人を前にして、俺はこれから先も冷静でいられるのかな。 考えているうちに病院へと着いてしまった。 病院の入り口には涼風の姿があり、笑顔で手を振っている。 「あ、蓮くん!」 いつもなら涼風の姿を見ると嫌気を差してしまうが、中身が心泉だと思うと不思議と嫌な感じがしない。 寧ろ最近では全く興味を惹かれることがなくなっていた涼風の笑顔が新鮮でいいものだと思えてしまう。 些細なことではないのだが、簡単に変わる心境に複雑な感情が渦巻いた。 今日は涼風の姿をしている心泉の退院日である。 そのため是非見舞いにとやってきたのだ。 ―――・・・そう言えばまだ気になっていたことがあったな。 ―――涼風と心泉さんは同じ場所で雷に打たれたと聞いた。 ―――・・・二人は元々知り合いで、どこかで会っていたのか? 心泉とは同じ学校で涼風とは学校が違う。 少なくとも蓮は二人が互いに面識があることを知らなかった。 「お待たせ。 元気そうだな」 「うん! 元気な状態で退院日を迎えられてよかった」 「荷物は俺が持つよ」 「ありがとう」 退院手続きは既に済ませていたらしく、二人は病院を後にした。 当然退院したなら自宅へと帰ることになるわけだが、今は少しばかり状況が違う。 にもかかわらず、迷いなく歩く彼女に尋ねかけた。 「・・・それで、この後はどこへ行くんだ?」 尋ねると彼女は思い出したように言った。 「あ、そうだった! 私の家へこのまま帰ろうとしたけど、今は私涼風ちゃんなんだよね」 その声と口調のギャップには未だに慣れず違和感を感じるがその通りである。 「あぁ。 涼風の家が分からないから俺を呼んだんだろ?」 「そう。 涼風ちゃんの幼馴染の蓮くんなら、よく知っているかなと思って」 「・・・そのことなんだけどさ」 「うん?」 今のままだと駄目だと思った。 蓮は一週間前の出来事を思い返していた。
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