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数日が経ち、心泉も無事退院し本来の日常を取り戻した。 入れ替わったという嘘を聞いていたのが蓮と嵐、心泉と涼風の四人だけであったこともあり騒ぎになるようなこともなかった。
そして休日の午前、気持ちのいい陽光を煌めかせ隣を歩いているのは涼風だった。
―――・・・正直、あの日の出来事は未だに整理がついていない。
蓮としても反省すべきことがあると思い至った。 涼風のことを昔のイメージから避けてしまっていたが、それはあまりにも幼稚ではないかと思ったのだ。
―――過去は過去として反省している。
―――改善しようとしている涼風と俺はちゃんと向き合っていなかった。
―――確かに遠慮なく言い合うようになってから、居心地が悪くなったのは憶えている。
―――もう顔を見るだけで嫌になって、気分が悪くなったり・・・。
―――俺がその関係を改善しようとさえ思わなかったのがいけない。
―――もうああなったら、俺たちの関係は終わりだと思っていたから。
そしてこれは最も大事なことだが、告白し涼風が受けたあの短い時間で確かな充実を蓮は感じていたのだ。 それは人生において最高と評価してもいい。
涼風が無理をしていたのかもしれないが、無理をしていてあの時間を作り出したとするのなら、それはそれで評価できる程に嬉しいことだ。
―――今すぐには認めたくないけど、変わろうとしてる人を無視することはできない。
―――今では涼風の中身が涼風のままで接していても居心地は悪くなくなった。
―――苦手意識がすっかり消えてしまったと感じている。
―――正直こんな入れ替わり作戦なんて、普通上手くいくはずがない。
―――それでもそれを試さずにいられなかった程涼風は追い詰められていて、もしそうだとしたのなら悪いのは距離を作った俺の方だ。
この入れ替わりを機に涼風への見る目ががらりと変わった。 “涼風は嫌な奴”という風に心が感じ、それに縛られていたため本来の涼風のよさをまともに視ることができなかった。
二人が入れ替わって実際に彼女たちと接したことでその思考はリセットされた。 ただだからといって心泉に対する感情は最初からマイナスなものはなく入れ替わった後も同様だ。
―――・・・二人が入れ替わったって嘘を言ってくれて、改めて考え直すいい機会になったからよかったのかもな。
「これで本当によかったの?」
涼風が顔を覗き込んでくる。
「・・・あぁ。 二人には悪いことをしてしまった気がするけど」
「そんなことないよ」
そう返したのは涼風ではなかった。
「心泉さん・・・」
二人の後方から心泉が駆けてきてそう言った。 心泉は優しく笑う。
「一度フラットな気持ちで関係を築き上げたいっていうのは、蓮くんらしくていいと思うよ?」
「・・・そうかな」
「この状態で無理矢理どちらかを選んだとしても、いつか後悔する日が来るかもしれないから」
三人の関係は一度リセットということになった。 どちらか一方をすぐに選ぶことは今の蓮ではできなかったのだ。
―――あの日の出来事が二人に対する感情に影響を与えたこと自体は真実だ。
―――・・・正直、俺の今の感情は涼風に傾いている。
―――ただそれをまだ認めたくない気持ちがある。
悪いと思っていた思い出も、自分を好きな気持ちの裏返しと思えば寧ろ可愛いとさえ思える程だ。
―――いや、それは流石によく思い過ぎか。
―――今でも許せないと思うようなこともあったもんな。
「ちょっと待ってくれよー!」
そんな三人に嵐が追い付いた。 それを見た涼風が言う。
「もう。 嵐くんまた来たの?」
「別に一緒にいてもいいって言ってくれたのは涼風ちゃんじゃん?」
「それを断ると蓮が悲しい顔をするから・・・!」
その言葉に蓮はケロッとした態度で言う。
「俺は別にそんな顔はしないけど?」
「おい! 蓮!?」
軽く裏切られたことに驚いたのか嵐は大きなリアクションを見せた。 嵐は告白を断られたが、涼風へのアプローチをこれからも続けていくらしい。
涼風いわく望みはほぼないということだが、それでもいいというのは嵐らしいと思った。
「と、とりあえず! 蓮がふらふらと迷ってばかりだったら、今度は俺が心泉ちゃんに告白しちゃうからな!?」
「はいはい」
「俺たちが付き合うことになっても恨むなよ!!」
「いやぁー。 それはないと思うけど」
適当に流した蓮に続き心泉もそう返した。
「って、心泉ちゃん! そこは上手くノッてくれよー!!」
こんな感じでどうやら四人はもう少しこの関係を継続することに決めたようである。
―――・・・でもいつかは決めないといけない日が来る。
―――そしたらこの四人の関係は崩れるのかもしれない。
―――・・・その日が来るまでは、どうかもう少しこの心地よさを味わわせてくれ。
-END-
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