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心泉視点
一方その頃、蓮と嵐がいなくなった病室で女子二人もただ黙って待っているだけではなかった。 まず話を切り出したのはベッドで寝ている心泉からだ。
「・・・ねぇ。 いつまでこんなことを続けるの?」
心泉としてはこの入れ替わりは短期的な話で、涼風の願いを聞いてあげる短い契約くらいのつもりだった。 こんな入院するような事態になって、入れ替わりを続けていくなんてことは有り得ないのだ。
―――恋愛的な意味合いとしては、涼風ちゃんと蓮くんが付き合うことになった時点で入れ替わりの約束は終わりだと思っていた。
―――・・・いやそれ以前に、この計画は本当は失敗すると思っていた。
―――後先のことを何も考えずに『入れ替わってもいい』って言った私は最低だなぁ・・・。
―――今こんなにも苦しくなっているんだもん。
―――自分で自分を苦しめた。
―――・・・蓮くんを好きな状態で協力するんじゃなかった。
―――それに今後入れ替わっていないのに、入れ替わったという話で生活を続けていくのはそもそも不可能だと思う。
―――家族の前では素の状態でいれても、蓮くんが家族の前に現れたらもう大変な状態。
それにもし可能だったとしても、心泉としてはそんなことをするメリットがないためしたくない。 もっともどう考えても続けていけるとは思えないのだが。
「蓮くんは私だと思って涼風ちゃんと付き合っているんだよね?」
「・・・うん」
「涼風ちゃんはこれでいいの?」
「それは・・・」
心泉も正直複雑な心境だ。 ただ全てが明らかになれば蓮と付き合うことになるのではないかという風にも思っている。 それは嬉しいが、涼風のことを考えるとそれでいいのかとも思った。
「私は涼風ちゃんのことを大切に想っているからお願いを聞いたんだけど、入れ替わった後どうなるのかまでは分かっていなかったんだ。 涼風ちゃんは今の状態を本当に望んでいた?」
「・・・」
涼風はそれを聞いて蓮たちが出ていった方へ目を向けた。
「嵐くんはウチのことが好きなんだよ。 やたらとアプローチしかけてきて鬱陶しい」
それは心泉は知らないことだ。 ただ先程の様子から何かあるとは思っていた。
―――私も蓮くんが私のことが好きだということを知っていた。
―――だけど・・・。
心泉はそれが嫌ではなかった。 寧ろ嬉しいとさえ感じていた。
―――このままだと、嵐くんは私を涼風ちゃんだと思ってアプローチをかけてくるのかもしれない。
―――そうなったらもうごちゃごちゃになって後戻りしにくくなる。
―――涼風ちゃんは好きでもない相手からもうアプローチを受けなくて済むから、いいと思うけど・・・。
そう考えていると涼風が言った。
「もし今入れ替わったのが嘘だって言ったら、蓮は嵐くんに気を遣ってウチと別れるって言うと思う。 ・・・いやその前に『告白したのが涼風だったなんて』って言われて呆れられちゃうかな」
そう言って寂しく笑った。
「・・・それでもやっぱり正直に言おうよ。 早いうちの方がいいよ? 遅くなれば引っ込みがつかなくなると思う」
そう言うと涼風は大粒の涙を零した。
「涼風ちゃん・・・・」
心泉としても涼風に嫌な思いをさせたいと思っているわけではない。 破局させようとしているわけでもない。 ただこのまま続けていくのはどう考えても無理なのだ。
―――・・・本当は私も蓮くんのことが好きだったのに。
―――その言葉は結局誰にも言えず仕舞いだ。
心泉としても心の中では泣きたい気持ちがあった。 いくら昔の恩人だからって、安請け合いしていいことと悪いことがある。
そもそももし心泉が蓮のことを好きでなかったとしても、こんなこと上手くいくはずがないから断るべきだったのだ。 断って、そのままの状態でどうにかなるか模索するべきだったのだ。
―――確かに涼風ちゃんの恋を応援する約束はした。
―――だけどそれはあくまで自分の我慢の上で成り立っていたわけで・・・。
命の恩人に近しい涼風の頼みを断れなかっただけなのだ。 泣いている涼風をどう慰めようかと困っていると、涼風は涙を拭いて言った。
「・・・分かった」
「え?」
「戻ってきたらちゃんと話そう?」
「・・いいの?」
尋ねると涼風は小さく頷いた。
「もしかしたら蓮が思うウチの印象もいい方向に変わったかもしれない。 ・・・それに賭けようと思う」
「・・・そうだね」
数分後病室へと戻ってきた蓮と嵐に向かって真っ先に事実を告げた。 全ては狂言で、最初から二人は入れ替わっていなかったのだと伝えたのだ。
「「・・・え?」」
その言葉を聞き蓮と嵐は固まった。 結局何が本当で何が嘘かもよく分からなくなるのも仕方がないことだ。
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