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白田の奥さんは俺たちと同じ演劇部でひとつ下の後輩だ。彼女は役者ではなく裏方の衣装係をずっとしていて、結局在学中は舞台に立つことはなかった。
「あ、そーいやあ星谷も付き合って長いよな」
「え?」
「そうだそうだ。百合子からそれ聞いてきてって言われてたんだよ」
杉本先輩に言われたことの意味がわからず首を傾げた。白田も同調しているが何のことだろうか。長く付き合うなんて俺にそんな相手いない。在学中からずっとそうだっただろう。
ふたりとも酒が入っているから誰かと勘違いしているのか、思わず聞き返した。
「……何の話ですか?」
「え?」
「何のって、そりゃ井上さんだよ。井上梨々香」
「……はあ?!」
自分でもびっくりするくらい大きい声が出て、白田も杉本先輩もビクリと体を震わせた。周囲の視線を感じて頭を下げながら、どうしてそこで井上さんの名前が出てくるんだと混乱した。
井上さん、こと井上梨々香は白田の奥さんになった篠原百合子の友人で同じく演劇部の後輩だ。
確かに今でも仲はいい。だけどそういう、男女の仲じゃない。
「ち、違います。俺らそういうんじゃないです」
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