552人が本棚に入れています
本棚に追加
フェロモン
次の日、学校では少し浮足立っていた。
「転校生来るって言ってたよー」
「なんかめっちゃカッコイイとか」
浮足立っているのは、どうやら女子の方である。
学校へ着くなり、琥珀もその話題には喰い付いていた。そして特に琥珀はみんなから「いいなぁ」と言われていた。
琥珀の後ろには転校生の机が用意されている。どうやら、琥珀の後ろに座る予定であった。
朝礼時、入っていたのは、前髪を下ろしたメガネ男子だった。身長は１７５センチぐらいは超えていただろう、大人びた男子で琥珀もかなりテンションが上がる。
「雨辻由良です、よろしく」
そういうと笑顔で会釈する。逆に教室内は彼に見惚れて静かだ。女子は正直だった。
「では、雨辻は、京の後ろな。京！ おい、かーなーどーめー」
先生に大声で呼ばれ、場所を指定される。咄嗟に琥珀が手を挙げた。
「かなどめ……？ 変わった苗字だな」
後ろに座った由良がボソッと呟いた。
「そうでしょ、珍しいと言われるのよねーよろしく」
琥珀はついつい笑顔で対応する。苗字についてのネタはもう慣れていたのだ。
「よろしく」
由良も笑顔で返してくれたので、琥珀は『ラッキー』とテンションが下がらず過ごせそうだった。
由良は授業中、全神経を学校中心に、範囲を少しずつ広げながら『気配』を探っていた。
（一番濃厚なのはこの街なんだけどなぁ、何にも引っかからないな）
そう思いながら、溜息を吐く。
あれは曽祖父からだった。小さいころから異能者の家系に生まれた由良は、物の怪という類を退治する一族だった。
自分が生まれた年に何かあったのかなんて、分かるはずがない。ただ、曽祖父は小さいころから由良に「由良が生まれた年に『運命の花嫁』も生まれているだろう」という話をしていた。
産れた瞬間感じた、異能者には特に過敏に感じる『雌のフェロモン』それがこの世界全体を走り去るように香気を放つと、消えていったと。
普通、運命の花嫁は生まれた時から雌のフェロモンは駄々洩れ状態である。だから、大切に囲われるように育てられ、来るべき『縁定めの儀』に備えるという。もしかしたら何か良くないトラブルに巻き込まれたのかと、曽祖父は心配していた。
運命の花嫁とつがいに成れた者は、その巨大なフェロモンを花嫁を介して自分の能力エネルギーに変換することができる。その力は想像を絶するもので、実質上その時代の異能者世界の覇権を握るに等しかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう！