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それを静かに聞く者
◇
こんな流れになるとは知らず、その場の誰にも気づかれずに、自分の気配すら消して神楽はそれを聞いていた。
琥珀の化猫については、神楽の背後で静観している者にも、不可解で厄介な代物ではあったのだ。
それが意外なところで答えをぶら下げてやって来た。
しかし、手が届くところに存在するのに、手にすることができない。
琥珀にしても然り、老師にしても然り。
神楽は何も発しない。
その表情には、只々憤りと焦りの色が濃く浮かんでいた。
楓は神楽に目を遣り不敵な笑みを浮かべる。
「夜桜くん、お互いここは停戦といきましょうかね」
その言葉が、更に神楽の感情を逆撫でした。
言葉はない。
ただ凄まじい程の殺気を含んだ圧が、周りの結界に反発し、『ミシッ……、ミシッ……』と不気味な音を立てる。
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