35人が本棚に入れています
本棚に追加
『カチャリ』
カードキーで操作された
玄関の解除音が、
わたくしの直ぐ後ろでしましたの。
そうすれば
自動でインテリア照明が
点灯し、
それまで
無音で暗闇だった室内が
照らされ、
BGMが流れましたわ。
もしかすれば、
わたくしは意識を飛ばした
あの港から
そのままマンションに戻った
だけかもしれませんわね。
走馬灯のわたくしでは
今迄
作動しなかった、
機械的ルーティンにさえ
心が揺らぎます。
『ふーっ。ただいま、、って、
誰ーれもいねーけどなっと?』
エントランスクローゼット
で靴を脱いで、
タメ息をつきながら
わたくしの主人
アマネさんが帰って参りました。
新婚当時は
話し方を気にされていたのも、
4年もすると
家では素が出てきてます
けれど、、
彼は残酷にも
わたくしの真ん前を
通りすぎて、、
窓硝子から眼下の街を
見下ろしながら
リビングのソファーに
ジャケットを放り出したのです。
いつの間に、
アマネさんは、
お行儀悪くなったのでしょう?
洗面所でなくキッチンで
手洗いをする
彼に
言い募ります。
わたくしの前では
キッチンでうがい、
我慢していたってことですもの。
わたくしは、
彼の、どこか可愛らしい横顔を
哀しくを見ます。
夫婦の距離感は
不思議ですわね。
家族半分で、恋人半分で。
赦しあえる
気安さがあるのに、
未だに男と女で
見ている。
さて、彼が
わたくしを無視するので、
意地悪を思い付きましたの。
走馬灯なら
好きに出来るはず。
この浮気者、
(本当は違うのでしょうが)
どう懲らしめてあげましょうか?
わたくしは
ポニーテールを外し、
ハーフアップに結い直して、
スズネっぽくしてみます。
『無駄に全部の部屋がデカイ
から、ダメなんだってさー、、
カ、カレンさん?え?戻った』
目の前の彼は驚いて、
出しっぱなしの
水道を
慌てて止めると
叫ぶ
ばかりですわ。
意地悪といいながらも、
迂闊な
アマネさんに警告と掲示
ですわね。
『帰っとるがな!!』
嬉そうに、
でも
意図するわたくしの行動は
解らない
彼の声。
それを背中に
リビングの片隅へ。
わたくしがオーダーした
特注のスツール。
そこに、
後ろを向いて座ってあげます。
『参ったよー、
カレンさん!僕この2週間、
本当心配したんだよー。』
あら?
2週間?そんなに立つのですか?
走馬灯とは、わたくしの
感覚と相違あるのですわね。
『ねー、彼氏んとこ
行くってさ、何?僕への
当て付け?怒ってんの?ね』
ふふ、
このスツール。
アマネさんが居てらした、
お店の物と同じにしてますのよ。
わたくしが、
座るのを見ることなかった
在りし日のスツール。
このスツールに座る
貴方を女達は、
どんな気持ちで
いたのでしょうか?情念?
只のヘルプホスト。
『え、なんでこっち向かないの、
人の思いは、
時に積もって
残るものと
今は余計に理解しますわ。
座る椅子1つの腰から
情念や思慕が這い上がるみたい
でしたもの。
『あれかな?ヤシロ女史の写真?
全然違うから。あの日の泊まり
だって、本当仕事だし。ね』
、、、
わざとらしく送りつけてきた
アマネさんとのキス写真ですか。
ヤシロ女史、、スズネ。
わたくしの携帯電話を、
兄達が開いて、
アマネさんに見せたのでしょう。
『カレンさん?何で
何もいわないんだろ?そんな
風に意地はるけど、カレンさん
も僕に隠してる事あるよね?』
ねぇアマネさん。
わたくし 本当は貴方との子供が
このお腹に出来てますの。
まだ薄い体で、
気付かなかったでしょう?
って、
言いたかったですわ。
『悪いけどさ、
クローゼットから赤いドレス、
僕見つけたんだよ。あれ何?』
どうやら、
わたくしがアマネさんの
素行調査をしていた
ドレスも見つけた様ですわね。
あのドレスは鎧ですのよ?
『なあ、カレン。
こっち向いて、 顔、見せて。
別に僕、怒ってないし。』
毎晩
どんなに接待で遅く帰ろとも
体を繋げてきましたものね?
『なんで、僕の接待店で
働いてたとか、何やいわんよ』
なのに本当貴方、
子供みたいですわ。
『カレン?あんま背中見せてっと
とりあえず後ろからヤルよ?』
アマネさんが 電話を
ダイニングテーブルに置いて
背中を見せるだけの
わたくしへ近付く気配がします。
『泣いとるのか?!』
泣いて、、いるの?
わたくし、、
アマネさんが、
わたくしの前に周りこんだ
はずなのに、
何故か
『な、な、に、、』
わたくしはキッチンに
向かってスツールで座って
いるです。不思議。
『あ、れ?』
渡す事が出来ませんでした。
本当は、
すぐにでも別れるべきでした。
それこそ
さんざん送りつけられた
写真を理由にしてでも。
『カレン~、またぁツンデレお嬢
かぁ~。何とかゆーてよ。』
正直いいますとね、
結局
わたくしは、
お腹が目立つ前までと、
離婚を先に伸ばしたのですわ。
『へ、!マジ?なんで?』
このお腹の子、ビーちゃんに
別れる父親の声を
なるべく
聞かせてあげたくて。
どうやら後ろ姿でしか、
アマネさんには
お会い出来ないみたいです。
今度は
アマネさんが、
わたくしの肩に手をかけたら、
手が空をかすめたのですもの。
『ええ、とりあえず抱かして!』
相変わらずアマネさんは
後ろから抱きつく勢いで
わたくしに
不埒な言葉を投げながらも、
飛び掛かったりしています。
『くーっ。ジーザス!!』
彼の両腕が また
空を抱いて、
1歩先に
わたくしが
後ろ姿で 立つの繰り返し。
気がついたら、
わたくし達
リビングを1周していましたわ。
『ねぇカレン!なんかゆーてよ』
わたくしの走馬灯という推測は
半分当たり、
なのでしょう。
ただ、
後ろ姿でしか現れないのは
意外でした。
いえ、、
違いますわ。確か、
聞いた気がしますのよ。確か
確か、、
彼の、アマネさんの地元では、
、、言うんです。
ああ、思い出しましたわ。
後ろ姿で戻ってくるって。
彼の島のお年寄りの
優しい言葉が
この後ろ姿の状態に、
符号するわけです。
『オバア、カレン、が、』
アマネさん。
『魂になって、見える、、
愛するもののもとにって。』
そう、
新婚旅行の時。
アマネさんから聞いた
島のオバアの言葉でしたわ。
~島の十字路にいけば、
愛しい者の後ろ姿が現れる。~
ごめんなさい、アマネさん。
わたくし
天音華恋ーアマネ・カレンー
貴方との、結婚4年目。
貴方との子供、妊娠18週目に
貴方に愛されたままに、
脳死した。
けれど、
まだ
神の愛、
次への光に導かれし者では
ないみたいです。
だから、
再び貴方の顔を見れる日。
わたくしは
500週後まで
舞台を降り
再びお会いいたしましょう。
最初のコメントを投稿しよう!