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14th week 愛された結晶が愛を宿したままに消えます
走馬灯で云うなら、
『今出て行ったわたくし』は
あのまま
実家に車を走らせましたわ。
わたくしを目に入れても痛くない
可愛がりようの両親の元に。
そしてさらに、
わたくしを
猫可愛がりする、
兄達が召集されるのです。
「あの人、兄達にもみくちゃに
されるかしら?殺されたりは
しないと思うのだけれど?」
一瞬主人のことを、今のわたしは
心配してしまいました。
さて、それから
家族の前で
『あの、わたくし』は、
お父様とお母様に進言しますの。
『結婚4年目にしまして、離婚を
したいと存じます。
不甲斐ない娘で
申し訳ございませんでした。』
わたくしの事を愛して止まない
家族の全員、、あ、
お手伝いのシモセキさんまで、
固まっていらっしゃった
わね。
と、まあ
そんな騒動が、この後に待って
いるのですわ。
そのようなわけで、
『走馬灯のわたし』が、
マンションから車で遠ざかるのを
「頑張りなさいませ~わたくし」
と片手をヒラヒラ降って
見送れれば
わたくし、
廊下を歩いて
ウォークインクローゼットルーム
の奥に進みますの。
「あら?結局、誰にも言え
なかったってことね?この
子の事は、どうなるのかしら?
もしも、お父様達に話ていたら
喜んでくださったはずよね。」
ここは人差し指を口元に
当ててから
わたくし、
コテンと頭を傾けます。
そうして、
まだ薄いままの下腹を
さすりまして、
クローゼットの奥にある、
プライベートデスクに
置いていた写真に視線を
落としますの。
「この子、、どうしたかしら」
それは胎児を写したエコー写真。
まだ黒い丸の状態なのに、
5週目の映像で見た、
女産科医『親友のユマ』は
ちゃんと心臓が動いていると
教えてくれましたの。
そうですわ、わたくし妊娠して
ますの。
不思議ですわね。
な~んの形にも、見えない、
鼓動だけの映像が、
とても愛おしく思えますの
だから。
お父様やお母様も、初めて
わたくしのエコー写真なるモノを
ご覧になった時には、
同じ気持ちになられたの
でしょうね。
なのに、、、
わたくしは、、
エコー写真を主人に見せる事は
しませんでしたの。
何故なら
あの日、わたくしの元に
この愛の結晶が映る写真とは
別の
写真がやって来たのですもの。
まさに不幸の手紙の如く。
わたくしを最愛と呼ぶ主人が
他所の女と
キスを、している写真、
ですわね。
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