12th week 偽愛の戦場に必要なものは己が手にした鎧ひとつ

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12th week 偽愛の戦場に必要なものは己が手にした鎧ひとつ

ー初めて送られてきた 『写真』は1年前ーでしたわね。 「ホスト時代の 隠し撮りですの、、随分と 古い手札をと、思いましたわ。」 わたくしは 愛しきエコー写真を、 ソッと デスクに戻します。 今頃 『走馬灯のわたくし』が、 離婚宣言に 大騒ぎをする父母や兄を 振り切って、 実家に在る自分の部屋へと 籠っている様子を 思い描きますの。 「結局、このマンションが 居場所なのだと、気が付いた のは、、3日後でしたわね。」 喩え 決着をつけ、 主人と離婚したとしても ですわ。 ゆっくり、 まだついている足で、、 クローゼットへ歩きましょうか。 互いのデスクスペースが両端に 有るのだけれど、 そう言えば主人のデスクには 行った事、なかったですわ! 「せっかくですもの~。覗いて みましょう。はしたない? でも『走馬灯』ですものね?」 そのまま 通路を兼用した 互いのウォークインクローゼット に挟まれる配置で、 夫婦の寝室を真ん中に リフォームしたのは 主人。 ウォークインクローゼットにだけ 出入口があるのは 『カレンとのベッドルーム、 知られんのは、ダメもん?』 と、わたくしには解らない 持論を 主人が言ったからですの。 「ホスト時代の名残でしょうけ ど、、ユキヒコさんに伺えば 良かったかしら、、。 新居の御祝いにいらした時、 寝室で微妙な表情されてました もの~。あの方なら理由を 知ってらっしゃったはず、ね?」 そんな後悔を呟き、 わたくしは ショーケースに鎮座する 1つの小瓶を 指輪のある指で突つきまして、 ふと、 ある事に気が付きましたの。 「 、、、わたくし、、香りが、、 しませんわ、、、、、」 ええ、 主人が贈ってくれた この瓶の香り。 普段から付けてはいるのだけれど クローゼットに入ると 特に、香っていたのに、 香水が薫ら、ない? まるで空の下、 海が 飛沫と潮の香を キラキラと散らせる様な 薫りが、、 「逝った人間は、、 『香り』が御馳走だと聞いたの ですけれど?違うのかしら、、 それとも、まだわたくしは?」 傍らの姿見に映る 自分のスッと形良い鼻。 朝。 主人が唇を重ねる時、 自分の鼻と、わたくしの鼻を 離れがたそうに 1擦り愛撫する この鼻を、 撫でつつ思案しますが、 「諦めましょうか。」 潔く考えるのを止めましたわ。 「~♪」 わたくしの プライベートデスクに飾る 港や、島の写真 振り返って眺めますの。 4年前。 新婚旅行にと 家族全員で訪れたのは、 主人の育った養護院の島。 コインロッカーベビーだった 主人を 溢れる親愛で島の皆様が 育てたと話される、 シスターが連れて下さった 礼拝堂で見上げた、 聖母像は 忘れられませんわね。 主人にとって あの、強い聖母の眼差しが、 愛なのだと理解しました もの。 この瞳を初めて誇れ、 浄化された気持ちになりました。 何故なら、 会った時から不思議でしたの。 主人は何時でも、 わたくしの悪女上がる此の瞳を 焦がれる様に 奥まで犯し覗くのですから。 けれど、 「潮の香りも、しませんわ。」 だから 少し、、寂しいですわね。 イモーテルの甘さに ウッディなナチュラルノートが 癒しになって、 次第にビタークールな 青いマンダリンが癖になる。 あの如何にも、 主人っぽい薫りがないなんて。 「嗅覚が1番最後 まで記憶に残るんですのよ?」 ならば、 主人の顔を何時まで、わたくしは 覚えていれるかしら? 『カレンの身に付けるもんは 僕ん用意するん、だけぇ♪』 機嫌よく歌いながら 主人自ら 買ってくる、 わたくしのランジェリーを 直していたのが、 クローゼットで主人を見た最後 でしたわね。 あの夜、 初めて主人は帰りません でしたもの。 「あ! いけない!アレは見つかって ないかしら!確認ですわね。」 主人は わたくしの 服飾を購入した時だけ、 わたくしのクローゼットに 直しに入るのですの。 だから クローゼットに隠したモノ 部分に視線を投げれば、 大丈夫でしたわ。 見つかってません。 「ふふ、残念。わたくしが自分で 揃えたモノもありますわよ~ 内緒のお買い物ですの。」 クローゼットウオールには、 服や鞄が並んでますけど、 全部 主人が用意した品々で わたくしが 纏うのは ご自分が購入したモノでなくては 嫌だと我が儘なのですわ。 「今回は、あの性分が問題で、 仕方なく、ここに隠しました けど。意外に大丈夫でしたわ」 1つでも、 主人が知らないドレスなんて、 あれば直ぐに解ってしまいます。 デイドレスや フォーマルの装いを ハンキングしている棚。 そう、 クラッチバッグや、 ハンギングするワンピースの 奥に、深紅のホルダーネック デイドレスという 女の鎧を隠してますの。 主人が揃えたクローゼットの 洋服達で唯一、 わたくしが自分で買った パワーアイテム。 「アマネさんも、まさか わたくしがホステスをして、 ご自分を探っていた なんて思いもしないでしょ。」 つい、楽しくて 口元が弓なりになってしまう。 送り付けられる写真は、 主人がホストをしていた頃の 写真から徐々に、 最近ゲストとして クラブに出入りする主人の様子を ご丁寧に変化をさせて 送り付けて来ましたのよ? 「わたくしが、ヤられるばかりの 令嬢ではないと、相手には 知らしめませんとですわよね。」 今宵 主人が選んだルージュカラーで、 わたくしの口は弓なりに 吊り上がりますの。
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