4th week 愛するが故に

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4th week 愛するが故に

~*yorokobi ni .゜*michi afurete 『リリリリリリリリリリリリリ』 *゜*.。 watashi*。 wa utau~ 『リーーー!!!ー!!!』 ♪.*゜*. 『リーンリーンリーン、、』 ボーーーーーーーーーーーー、、 ボーーーーーーーーーーーー、、 ゴスペルの調べが、 けたたましい電話のベル音にと 変わり、 やがて船の汽笛へとなるのです。 わたくしは、 あのシャンパンコールが鳴る 階下で『タチバナ・リンコ』を 認めた瞬間に、 「すいません、アザミです。勝手 を言いますが、只今を持って、 辞めさせてくださいませんか。」 電話を掛けていましたの。 主人の潜伏内偵をするために 入店したクラブ『Q』。 いわゆるホステス保証期間中に、 わたくし 『Q』を辞めましたの。 「申し訳ございません。本当に 私事ではありますが、この度 離婚の準備に入らせてもらう 事になりまして。少し、慌ただ しくなりそうですから。では」 アヤミちゃん達が騒いで、 ダンスタイムに飛び出すのを わたくしは席で眺め電話を切り ました。 隣で、わたくし担当のホストが 目をまん丸にしています。 「今日は、わたくし帰ります。 わたくしに伝票回してください」 彼は頷くと、内勤のボーイに合図 します。 「また、来るだろ?」 愛想ない彼が、珍しく聞きます。 彼とは、素飲みだけで 会話らしい事をしてませんのに。 面白いことです。 「どうかしら?じゃあ、これで。 ご機嫌よう。アヤミちゃんには 伝えておいてくださるかしら?」 わたくしは、 金額未記入の青い伝票を摘まんで ふと笑います。 「何?」 わたしの笑みを、不思議そうに 担当の彼は見ていましたわ。 「いえ、これから、、今度は、 緑の紙を書くものだから。」 青伝票をクラッチバッグに 直しつつ答えます。 「、、?送るけど。」 「いらないわ。営業しなくても ちゃんと『掛け』払いますよ」 今まで掛け払してませんからね、 ここで飛ばれると思ったので しょう? いわゆる『エレチュー』『枕』の かけ時とふまれましたか? 「・・・」 「ご機嫌よう。」 始まったダンスタイムで、 フロアの賑わいが後押し。 誰も わたくしを気にも留めません。 ひっそり階段を上がり、 出口から見下ろせば、 煌めくシャンデリアの 向こうに アヤミちゃんとアイドル系担当、 そして 主人達が踊る姿も見えますの。 「願わくは、 接待相手で終りますように。」 そう、神に祈りたくなり つい両手を胸で組んでましたわ。 まるで宮殿のような内装と、 どこか不釣り合いなのに 怪しいライトで誤魔化される 大音響のJPOP曲が 遠い世界になりつつありますの。 『ありがとうございましたー』 会計ブースを横に、 意を決して『戀』を出ると、 わたくしは ハーフアップにした髪を下ろし、 ポニーテールに戻します。 これは、 わたくしの戦闘スタイル。 銀杏通りの白タクを呼んで、 マンションに帰りましたらば、 「シモセキ息子、離婚届けを。 それから、アマネさんの里親様 が営んでいらっしゃった釣船と 同等の船を購入。下関に戸建を 見繕ってくれるかしら。」 早速コンシェルジュブースで、 迎えてくれる ワンコ系の可愛い男子に 依頼しましたのね。 「カレン様、お帰りなさいませ。 かしこまりました。離婚届は、 こちらに用意してございます。 船と不動産は、お時間頂けます でしょうか。ところで、離婚届 の件、伝えても差し支えは?」 彼は、実家の母のお手伝いを しているシモセキの息子。 わたくし達が住みます マンションのコンシェルジュ統括 をしている若者です。 「ごめんなさいね。まだ伝えない で、いてくれるかしら。時間も 急がないけれど、船は受注発注 でしょうから動いてくれる?」 それにしても、 いくら万能コンシェルジュといえ 離婚届を用意してるなんてと、 口にすると 婚姻届もあると、ワンコ顔で 微笑まれましたわ。 「かしこまりました。カレン様」 わたしの電話に内臓している GPSで、 彼らも わたくしの帰宅のタイミングが 解っているとはいえ、 戻ると必ず こうして迎えてくれるのです。 「お休みなさいね。」 それがどれほど有り難いことか。 今となっては、 見に染みます贅沢ですね。 「お休みなさいませ、カレン様」 見慣れたエントランスホールを 横切って、 乗り込んだエレベーター。 ~*yorokobi ni .゜*michi afurete 『カラ~~ンコ~ン』 *゜*.。 watashi*。 wa utau~ 『カラ~~ン』 ♪.*゜*. 開けば、そこには 学院初等部。 生徒会執務室。 走馬灯とは残酷ですのね? わたくしの同窓であり、 『タチバナ・リンコ』が娘 『ヤシロ・スズネ』との 決裂のあの日だったんですもの。
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