キャバレー ピンクヘルパー

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 姉が嬉し涙を眠気で誤魔化した。荷物は姉から借りた大きなボストンバッグひとつ、着替えと日常必需品を詰め込んだ。いわきの街は大きくてこれなら何でも揃うと安心していたが乗り込んだバスに三十分揺られて下車した所は林の中の路の行き止まりだった。バス停に介護ホーム『桃色黄昏』と小さな看板がある。まだ夕方だからその看板を見つけることが出来た。夜なら全く気が付かない。看板には矢印があり林道を歩いた。車一台がやっと通れる幅員である。轍以外は草が伸びている。右側の轍は水溜りがある。バス停からもう二十分歩いたが建物らしきものが見当たらない。陽は完全に沈み灯が無ければ歩けない。前からライトを上向きにした車が来た。避けるには林に入らなければならない。 「何処にえぐんだべこんな時間に?」  運転手が気付いてくれた。 「介護ホーム、桃色 黄昏」 「なに?ももいろたそがれだ?演歌のよこはまたそがれみたいにこくんじゃない」 「じゃあれは何と発音すればいいんですか?」 「あれはピンクトワイライトと読むんだぞい、それくらい分からないべ?」  誰が読んでも桃色黄昏でカタカナで尋ねる者はいないと思う。 「道順を教えて欲しいんですけど」 「轍、あんたから見て右側を歩いて十分」  目途がついた。 「ありがとうございます」  歩き出すと「おい」と声が掛かった。 「ほんじぇ終わりじゃない、この時間帯猪の通る獣道になっているから左側の轍をえぐんだべ」  よく分からない。右の轍が獣道だから左を行けと言っているのだろうか。 「十分ぐらい歩くと地蔵があるからそれを右方向に進むんだべ」 「分かりました。十分ぐらい左の轍を歩くと石の地蔵さんがあるからそこを右方向に進めば介護ホームピンクトワイライトに行き当たるんですね」    
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