キャバレー ピンクヘルパー

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「誰が石の地蔵って言った。瀬戸物の地蔵だ、こんなちゃっこいやつ」  運転手の男は手で大きさを表現した。三十センチに満たない。 「ホームの所長が道標に置いたもんだ。そこを右に曲がり五分ほど行くとまた地蔵があるからそれを左にまがるんだべ」  整理しないと分からなくなってきた。左側の轍を十分歩いて行くと瀬戸物の地蔵があるからそこを右に曲がる。五分ほど歩くとまた地蔵があるからそこを左に曲がる。 「今度の地蔵さんはどういう材質ですか?」  僕はシャレのつもりで訊いてみた。 「地蔵は大概石だべ、石以外にあるなら見てみてい。さっきは区別するためにあえて瀬戸物と伝えたんだ」  シャレは完全に外れた。 「左に曲がると見えるんですね?」  車の中で大笑いしている。助手席から女の笑い声がする。 「そこの路をしばらく行くと校門がある。そうだなあ歩きなら十分掛るかなあ」  十分、五分、十分で二十五分、ここまで二十分、四十五分の道程じゃ徒歩じゃきつい。それでも先が見えたことに安心した。 「ありがとうございます」 「ほんじぇにしゃホームに何の用があるのかね?」 「僕はヘルパーなんです。明日から桃色黄昏で働くことになっています」  説明する義務もないが丁寧に道案内してくれたので正直に話した。 「それじゃあんたは横浜から来た三上さんかね?」  運転手は僕の名前を知っていた。 「はい、でもどうして僕の名前を?」 「どうしたもこうしたもあるけぇ、俺はあんたを迎えにえぐところだぞい」 「それじゃあなたはホームの方ですか?」 「今野と申すっぺない。ここで待っててくだっしょ、明美ちゃん送ったらすぐに戻るから」  軽トラは走り去った。さっきまでの問答はなんだったのだろうか。僕が鈍いのか運転手がとぼけていたのか。まあどっちでもいい。僕は暗闇の中左側の轍を歩いた。  
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