キャバレー ピンクヘルパー

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キャバレー ピンクヘルパー

 五年前にヘルパー二級の資格を取ったのはこれから介護の仕事が増えるよと姉の薦めだった。 「どうして介護の仕事が増えるの?」 「十年後には年寄りばっかりになるからさ、そんなことも分からないのかお前は」  男勝りの姉はこれから介護職が必要になると世間の噂から一早くヘルパー二級の資格を取った。そして緑区のホームに勤めるようになった。それが半年もしないうちに辞めてしまった。 「どうしたの姉さん?」 「割に合わない、きつい、汚い仕事の割に金がめちゃ安い。お前も止めたほうがいいいぞ」 「どうして?もう受講してるよ。助成金ももらってるし今更止められない」 「まあ資格だけ取ってても損はない。失業していざとなったら食い繋ぎにはなるだろう」  その食い繋ぎがやって来た。会社が倒産した。バブルが弾けてもワークシェアリングしながら持ちこたえていた会社が出勤した朝に潰れていた。昨日の帰りには笑って挨拶していた事務のおばさん達も誰も来ていない。私物は全て持ち帰っていた。親族経営だから前日からの作戦通りの倒産だった。僕には車のローンがあった。貯えもない、貯えるほどもらっていなかった。姉と二人暮らしでマンションの家賃から光熱費一切を割勘である。食費はそれぞれ自分持ち。僕も来年二十八歳になる平成十年の秋だった。 「建築屋は大手じゃなきゃ安心出来ないな。お前んとこみたいな三十人足らずの会社じゃ危機には太刀打ちできない」  ヘルパー辞めてから元のホステス業に戻っていた姉が言った。 「姉さんの付き合いで建設会社の人はいない、いたら紹介して欲しいな」 「お前資格は?二級建築管理技士?駄目だそれじゃ、石投げれば二級に当たる。どんな資格も一級じゃなきゃ認めてくれない」  建設業界はどこも低迷していた。金が無けりゃ家を建てない、直さない。建物造らなきゃ建築屋要らない。    
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