王子様と妃

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 主役の香奈さんが体調不良で来られないことが劇団員を含めた関係者全員に伝わります。  誰もが舞台はどうなるんだ、代わりをやれる人はいるのかと騒ぎました。  監督が舞台開始の8時間前に、劇団員全員を集めて話しました。 「昨日のリハーサルの時に、香奈さんから少し体調が悪いことは聞いていた。でも余計な不安を与えたくないので他の人には内緒にしておいて欲しいと頼まれていた。まさか今日ここに来られないほど悪くなるとは俺も思わなかった」  劇団員の若手が声を上げる。 「監督、急に誰かが代役なんて無理に決まっている。主役の台詞と演技は貴重です。舞台、中止になるんですか?」  中止という言葉に劇団員全員が青ざめて苦悶の表情を浮かべながら騒いだ。  監督が私の方をチラリと見たので目が合った。 「みんな、落ち着いてくれ。中止には絶対にしない。今日、香奈さんから電話をもらって、本当に申し訳ないと思っていることと、代役を頼みたい人がいると聞いた」  監督が集まった劇団員の後ろの方にいる私に手を振って大声を出した。 「おーい、寧々(ねね)ちゃん、前に来て。香奈さんのご指名だよ」  劇団員全員が私の方を見て首を傾げてざわついた。  劇団員で一番の古株のおじさんが渋い声で話した。 「監督、寧々ちゃんが香奈さんの代役を務めるなんて無理な話だ。寧々ちゃんは魔物の役だったし、台詞を覚える時間もねえ。寧々ちゃんには主役は荷が重いんじゃねえのか」
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