報道特番

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報道特番

 窪田美織(くぼた みおり)はリビングの壁掛け時計を見た。長針と短針が交わる14時10分過ぎ。レースのカーテンを透かして穏やかな春の日差しが揺れている。  ソファに腰を下ろし、手招いた五歳になる長男英斗(えいと)と三歳の長女美毬(みまり)の肩を抱き、テレビを点けた。左手で時おり腹部を撫でながらふたたび壁掛け時計を見つめる。もうすぐ始まる。胸苦しさを覚えて大きく息を吐いた。 「美毬(みまり)、テレビもうすぐ始まるからがんばって起きてるのよ」  少し遅めの昼食をすませ、ウトウトとしかける美毬の肩を揺すった。 「パパは映う?」つむじが動く。  事情を知らない美毬(みまり)は無邪気に美織(みおり)を見上げる。パパはどうかな? 映るといいね。娘の頭を撫でた。 「パパは勝つ」腕の中で動く英斗の声は真剣そのものだ。 b92a94be-2c3b-4491-8c2a-ea6508bbf391  CMが終わり画面に大きく『スクープ・報道特番! 我が子を救え!』の文字が躍った。レポーターが興奮を抑えきれない声でマイクを握っている。 「こちらは永田町一丁目、国会議事堂前です。中では、午後一時から通常国会が開かれています」  その頭はフェイスシールド付きのヘルメットに覆われ、着用した黒い防弾ベストが、ただならぬ状況を否が応でも伝えてくる。 「先ごろ政府が発表した政策につきましては、有識者間でも意見が交わされ、皆さまご存知のようにテレビ各局でも多くの討論番組が組まれました。  日本の現状を考えれば速やかに実行に移す他なしとする意見がある一方、実施はやむなしとしながらも、一度凍結し民意の熟成を待つべきだとする意見があります。  確かに日本は危機的状況に陥っています。しかしながらなぜ今、なぜ唐突に実施に踏み切ろうとするのか。それが総選挙を圧勝した翌年とあって多くの国民の反発を招いています」
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