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「僕はただ、君島さんに見て貰えれば、それで良いんです」
「な、んだよ。それ……告白かよ」
山田が近づいて来る間に、何度も何度も涙を止めようとしたが、止まる気配の無い涙を流しながら、私は震えた声で彼を茶化してみせる。
「……はい。そうです」
「……はい?」
私が茶化すために言った言葉に対して、山田が真剣な声で『はい』と返してきて、私は驚きのあまり、咄嗟に彼の方に顔を向ける。
すると山田は顔を真っ赤にして、初めて見る笑顔を私に向けて、自分の前髪を触りながら話始める。
「似合ってますかね?」
「え、うん?似合ってると思うけど、今のって……」
私は彼の言葉の真意を聞こうと、ぐちゃぐちゃになっているだろう自分の顔も気にせずに質問すると、山田は深呼吸をしてから私の方に体を向けて口を動かす。
「好きです。付き合ってください」
「……よろしくおねがいしますぅ」
先程まで私を蝕んでいた考えと、体から込み上げてくる嬉しさが混じり合って、私の頭は働かないまま彼に抱き着いて返事をする。
「き、君島さん!?」
「落ち着くから……ちょっとまってぇ」
私は山田の顔の横で、鼻をすすりながら精一杯涙を止めようとすると、止まらなかった筈の涙は不思議とゆっくり止まり始めて、私はどんどん眠たくなってしまう。
山田はそんな私に気が付いたのか、鼓動を高鳴らせながら話始める。
「あ、あの。それでなんですが、君島さんの分のお弁当も作ってきたので……一緒に食べませんか?」
「へ?」
「昨日美味しいと言って貰えてうれしかったので」
「いいのかな……」
「君島さんに食べて欲しかったんですよ」
「うう、なら貰う。ありがと」
泣き顔を見せてしまったからか、威厳を見せるでもなく山田に促されて渋々彼から離れると、山田はまだ顔を赤くしたまま、鞄から弁当箱を取り出して私の前に置く。
「どうぞ」
「ありがと」
私は彼が作ってくれた弁当箱を受け取ると、ビニール袋から割り箸を取り出す。
それを見ていた山田は、驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑って声を出す。
「君島さんだって、割り箸を用意してるじゃないですか」
「調子乗んなバカ……」
私は力が入らない体で、気の抜けた声のままそう返した。
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