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 私の話のお陰か、山田の口元が少し緩んだがして、これを機にと、私はずっと言えなかった事を口にする。 「な、なあ。ちょっと、ちょっとだけ貰ってもいいか?」  顔の前で手を合わせて懇願する様に言った私に、山田は少しの間硬直してしまうが小さく首を縦に振ってくれる。 「いいの!?前からおいしそうだなって思ってたんだよ」  私が手を合わせるのを止めると、山田はお弁当箱の蓋を持って取り分けようとしてくれるが、私はある事に気が付いてしまう。 「ちょっと待って。私、箸持ってない」  私の静止の言葉を聞いた山田は、卵焼きを持った箸を空中で止めるが、少しして諦めた様に、その箸を自分の口元に持っていこうとして、私は咄嗟に彼の手を取る。 「山田。その、ごめん!」  待ちに待った機会を諦める事が出来なかった私は、山田が持っている箸に向かって口を持っていき、そのまま卵焼きを食べる。 「っ……うっま!」  私が漏らした声も聞こえない程ショックだったのか、山田はまた硬直して私の顔を見つめてくる。 「ご、ごめんな?」  無言の山田のせいで、私は自分の行動が今になって恥ずかしくなってしまい、顔が暑くなっているのに気が付いて、山田から目を背ける。  羞恥のせいかしばらくの無言が続いて、居たたまれない空気を壊そうと、私は立ち上がる。 「なんか、ほんとごめんな。でも美味しかったよ。ありがと」  私が立ち上がった衝撃で、やっと山田も我に返ったのか、山田は小さく口を動かす。 「あ、あの。別に嫌とかじゃなかったから。その……」  山田が言葉に詰まった時、不意に風が吹いてきて、髪の毛で隠れていた彼の真っ赤な顔が見える。 「……うん。やっぱりお前、髪切った方がいいよ」  私の言葉を聞いた山田が急いで髪を抑える姿に、私は笑いながら一言だけを残して、扉に向かって歩き出す。 「また明日な」 「う、うん。また明日」
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