幸せ

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幸せ

――――10年後 『性的マイノリティによる同性婚の法案が施行され、4年が経ちました。本日はクリスマスということもあり婚姻届の届出数が過去最多を更新するとの予想です』  某役所の休日窓口。管理室のテレビではニュースの映像が流れていた。  それを眺めながら順番を待っていた1組のカップルは、職員が戻ってくると立ち上がった。 「大変お待たせいたしました。不備等はございませんので、本日12月25日付で受理させていただきます。ご結婚、おめでとうございます」 「「ありがとうございます」」  今日この日から夫婦となったカップル。  2人は手を握り、喜びを分かち合った。 ◇ ◇ ◇ 「さて、今日は忙しくなるよ〜。ね? 新郎様」  長い亜麻色の髪をなびかせる女性は、左指にはめたシルバーリングを輝かせながら子どものように笑う。 「だな。でも、一生涯の思い出になるよ。僕たちが付き合った記念日に入籍、そして結婚式を挙げるんだから」  新郎と呼ばれた者は黒髪のショートカットに中性的な雰囲気を持った人物。 女性……? 男性……?  と、どちらとも取れるが、彼らにとって性別はそれほど重要ではないだろう。  幸せな表情を浮かべているのだから。  プーー  進路の先で車のクラクションが鳴る。  2人が見ると、車から男性が1人降りてくる。  長身の男性は金髪にピアスと人の視線を引きつけそうな出立ちをしている。 「よお、無事終わったみたいだな」 「終わったよ〜〜。タクシーお疲れ様」 「俺はタクシーじゃねーぞ。ったく、イタリアから帰ってきたばっかなのに使い勝手のひでー奴らだ」 「ごめん、無理させたか?」 「ハハハ、冗談だ」  3人は旧友のようで、楽しそうに微笑み合う。 「さあ、式場まで行くぜ。2人の結婚式が楽しみだ」 「うん、ドキドキするけど楽しみ。頑張るね」  男性は運転席へと乗り込み、女性は後席へと向かう。  このまま3人は挙式会場へと向かい、一生の幸せとなる思い出を作るのだ。 「楓」  と、その時。  新郎が新婦の名を呼ぶ。  楓と呼ばれた新婦はドアノブにかけた手を外し、振り返る。 「君を絶対に幸せにするから」  真剣な面持ちをする新郎を見た楓は、あの時を思い出す。  10年前の今日、目の前の人が自分へ告白をしてくれた時を。  この人は、あの頃と変わらず覚悟と愛情を持った目をしている。  そして、楓もまたあの頃と同じ笑顔で応えるのだ。 「うん、幸せになろうね!」  それは、太陽のように輝き、温かみのある笑顔だった。 ◇ ◇ ◇  2人は今後、長い時間を共有し幸せな道を歩むだろう。  時に困難であり、立ち止まることもあるだろうが大丈夫だ。  2人の親友である俺は側で見てきたから分かる。どんなことも乗り越えられるってな。  俺は目の前で式を挙げる彼らに対してとびきりの拍手を送る。  2人とも、最高の笑顔をしていた。
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